現存艦隊主義

現存艦隊主義

現存艦隊主義（げんぞんかんたいしゅぎ）とは、海軍の戦略の一つで、艦隊を温存することによって敵の海上活動を抑制する考え方です。英語で "fleet in being" と呼ばれ、艦隊保全主義とも表現されます。この戦略は、直接的な戦闘を避けつつ、自軍の艦隊が存在することが敵国にとって脅威となることを狙っています。

由来

この理念は、17世紀イングランド海軍の提督、アーサー・ハーバートによって初めて提唱されました。彼は、戦争の激化の中で自軍艦隊を守るために消極的な行動をとり、海軍戦略における「艦隊の存在」が抑止力になることを強調しました。ビーチー・ヘッドの海戦での彼の指揮は多くの批判を受けましたが、その後、彼の言葉が現存艦隊主義という軍事用語として定着しました。

基本的な考え方

現存艦隊主義は、艦隊が存在することで敵国の行動を抑制するという消極的な戦略です。基本的な運用として、艦隊決戦を回避し、海上勢力を可能な限り温存します。戦術的には、敵艦隊に対して決定的な打撃を与えることを目指さず、相手の攻勢を防ぐために必要最低限の損傷を与えることを目的とします。これにより、自軍艦隊の損失を避けつつ、相手国に多大なリスクを負わせるのです。

しかし現存艦隊主義には弱点があります。一つは制海権の獲得ができないため、自国の自由な海上活動が制限されることです。具体的には、敵の艦隊を攻撃して撃滅しない限り、自国の海上行動を自由にはできません。この戦略は、国力が劣る国が強国に対抗する手段としてよく使われます。

実戦における教訓

現存艦隊主義は歴史上、さまざまな海戦でその効果と限界を示してきました。たとえば、フランス海軍はこの戦略を多くの場合採用しており、特に帆走戦艦時代には撤退が容易であることを重視しました。第二次世界大戦では、フランスの艦隊の存在が他国に対する重要な抑止力となったことが挙げられます。逆に、この自然の法則を理論的に利用しきれなかった例も多くあります。

一方、ドイツ海軍は第一次世界大戦で現存艦隊主義を適用し、イギリス海軍に対抗しました。しかし、制海権を獲得できなかったため、食糧不足に悩まされ、さらには水兵の不満が反乱につながる事態になりました。

また、ロシアの旅順戦例も挙げられます。艦隊が外部からの脅威に直面しながらも、出撃をためらった結果、全滅してしまった事例は現存艦隊主義のリスクを示しています。

最近の事例

冷戦時期のソ連海軍が、特に大西洋での攻防において提示した艦隊の存在感は、他国にとっての脅威として機能しましたが、その軍事予算は国家財政に負担をかける要因でもあった点で難しいバランスを保っていました。

現存艦隊主義は、新旧の海軍戦略の文脈において、海戦の歴史における多くの事例を通じて成功と失敗のシナリオを持っています。それでもなお、多くの海軍がこの戦略を学ぶことで、現代戦争でもその価値が見直されているのです。

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