生きものの記録

映画『生きものの記録』について

概要

『生きものの記録』は、1955年に公開された日本映画で、黒澤明が監督を務めました。モノクロ映画であり、103分の上映時間を持つ本作は、原水爆の恐怖をテーマにした社会派ドラマで、当時の日本社会における反核ムーブメントに強く影響を受けています。

主演の三船敏郎は、原爆の恐怖に取りつかれる老人役を演じ、本作では35歳ながら60歳のキャラクターを見事に演じきりました。また、映画音楽は早坂文雄が手掛けましたが、彼の最後の作品でもあります。

あらすじ

物語は、歯科医であり家庭裁判所の調停委員を務める原田が主人公です。彼は、ある日家族から中島喜一に対する準禁治産者申し立ての裁判を担当することになります。喜一は鋳物工場を経営している58歳の男性で、原爆への恐怖から逃れるためにブラジルへの移住を計画します。そのために全財産を投じることを考えていました。

家族は喜一の被害妄想に頭を悩ませ、彼が準禁治産者になることを強く訴えます。しかし、喜一は法律を無視して急ピッチで移住計画を進め、ブラジル移民の老人を呼び寄せ、その映像を家族に見せます。喜一の放つ「死ぬのはやむを得ないが、殺されるのは嫌だ」という言葉が原田の心を動かし、彼は状況に理解を示すものの、最終的には申し立てを認めざるを得なくなります。

準禁治産者となった喜一は財産を自由に使えなくなり、計画は挫折。彼は家族に懇願しながら倒れ、夜中に目を覚ますと、工場に放火し精神病院に収容されます。そこで喜一は明るい表情を見せ、「地球が燃えとる」と叫びます。

キャスト

映画には、次のようなキャストが参加しています。

• - 中島喜一：三船敏郎
• - 原田：志村喬
• - 中島二郎（喜一の次男）：千秋実
• - 山崎隆雄（よしの夫）：清水将夫
• - その他、多くのキャスト

制作の背景

この映画のアイデアは、黒澤明が『七人の侍』の撮影中に友人の早坂文雄宅を訪れた際、ビキニ環礁での水爆実験のニュースを聞いたことから生まれました。やがてこの企画は、『死の灰』というタイトルで始まりましたが、最終的に『生きものの記録』に改題しました。撮影は数回の中断を経て、1955年10月に無事にクランクアップしました。

評価と影響

『生きものの記録』は興行的には失敗に終わり、黒澤自身も「赤字だった」と語っています。その理由について、当時の日本人が現実を直視できなかったことを挙げています。しかし、第9回カンヌ国際映画祭に出品されるなど、評価を受けました。大島渚や徳川夢声も高く評価し、この作品について強い印象を受けたことを述べています。

特に、東日本大震災以降に再評価され、鈴木敏夫は本作のリアリティに感銘を受けたと語っています。彼は、黒澤監督が生きた時代背景を反映した作品であると考え、多くの人々に観てほしい映画であると語っています。

その他の情報

映画のタイトルに関しては、別の作家が同じタイトルの小説を発表していたため、クレジットにはその好意が記載されています。なお、いかなる関連性もない点が特徴的です。また、完成した作品には多くのキャラクターとストーリーの複雑さがあり、観客に深い印象を残しました。

もう一度検索