生殖器崇拝

生殖器崇拝とは

生殖器崇拝（せいしょくきすうはい）は、人間の男女の生殖器を神聖なものとみなし、それらに由来する対象物や象徴に対して、多産や豊穣などの呪術的な力を認め、信仰する行為です。性崇拝、性器崇拝とも呼ばれます。

古来より世界各地で見られる信仰であり、生命の誕生に関わる生殖器を神聖視することから、豊穣儀礼と深く結びついてきました。しかし一方で、穢らわしいもの、あるいは淫らなものとする見方も存在します。

生殖器崇拝の対象

崇拝の対象となる素材は、自然の木や岩石、あるいはそれらを加工した人工物など様々です。形状も生殖器に似たものだけでなく、連想させる代替物や、男女の神仏（道祖神、聖天など）も含まれます。

仏教系の性崇拝物は、中国、チベット、ネパール、インドなどを経て伝来したとされ、仏教だけでなくヒンドゥー教などの影響も受けています。

各地の信仰

インド

古代インダス文明では、生殖器崇拝の痕跡が発見されています。当時、子孫長久や多産への祈願は、人口増加が社会的生産の増加や戦闘力の強化に繋がるため、切実な意味を持っていました。

現代ヒンドゥー教のシヴァ神のリンガ崇拝は、男性器と女性器が結合したモニュメントを崇拝するもので、現在も盛んに行われています。ただし、現代の信者は生殖器崇拝の意識は持っておらず、あくまでシヴァ神の象徴として捉えています。

日本

日本では、石器時代の土製品が出土しており、古代から中世にかけて道祖神として祀られることが多くありました。その後、地蔵信仰と混同され、江戸時代から明治時代にかけても一部の庶民の俗習として残りました。

日本の性崇拝物は、仏教系（聖天）と神道系（金山毘古神、道祖神など）の二つに大きく分けられます。加藤玄智は、農村部でアニミズム、呪物崇拝、男根崇拝の痕跡を多く見つけることができると指摘しています。田縣神社の豊年祭や雌岡山の裸石神社などがその例として挙げられます。

その他の地域

西洋では、古代ローマで男根の像であるファスキヌムが信仰されていました。東洋では、リンガ（インド）、チャオメートプティム（タイ）、ハラホリン石（モンゴル）などが信仰の対象となっています。

現代における意義

生殖器崇拝は、古代社会における生命の尊厳や豊穣への願いを象徴するものでした。現代においては、その直接的な信仰は薄れていますが、文化人類学や歴史学の研究対象として、また、各地の祭や文化財として、その痕跡を辿ることができます。また、性の多様性やジェンダー観が多様化する現代において、性に対する異なる文化や価値観を理解する上で、重要な意味を持つと言えるでしょう。

脚注

『生殖器崇拝』 - コトバンク
『性器崇拝』 - コトバンク
『陰陽崇拝』 - コトバンク

関連項目

道祖神
豊穣信仰
アニミズム
* シヴァ神

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