田上順次

田上 順次氏（たがみ じゅんじ、1955年生まれ）は、日本の歯科医療界を牽引する歯科医師であり、歯学者です。長年にわたり、教育、研究、臨床の第一線で活躍し、特に歯科保存学の分野において顕著な功績を残しています。現在は東京医科歯科大学の歯学部長を務める傍ら、同大学大学院医歯学総合研究科の教授として、摂食機能保存学講座におけるう蝕制御学分野の研究・教育を主導しています。

経歴

三重県に生まれた田上氏は、1980年に東京医科歯科大学歯学部を卒業しました。学士課程修了後、同大学の大学院に進み、1984年に大学院課程を修了し、歯学博士の学位を取得しています。博士論文のタイトルは「コンポジットレジンのエナメル質接着性に及ぼす酸蝕技法の影響」であり、この頃から歯科材料と歯質との接着に関する研究に注力していたことが伺えます。大学院修了後は、母校である東京医科歯科大学で助教としてキャリアをスタートさせました。その後、奥羽大学で教授を務め、教育者としての経験を積みました。1995年には、再び東京医科歯科大学に戻り、教授の職に就任しました。以来、同大学で中心的役割を担い、歯学部長や大学院の要職を歴任し、日本の歯科医学教育・研究の発展に貢献しています。

研究と専門分野

田上氏の専門は、歯の硬組織の疾患であるう蝕（むし歯）の治療・制御、および失われた歯質を回復させるための保存修復学です。特に、歯科治療に不可欠な要素である「接着」技術に関する研究は、そのキャリアを通じて一貫して重要なテーマでした。コンポジットレジンなどの修復材料を歯質に強固かつ安定的に接着させるための技術開発や臨床応用に関する研究は、日本の歯科保存治療の水準向上に大きく寄与しました。また、可能な限り健康な歯質を削らずに修復を行う「Minimal Intervention（最小限の介入）」という概念に基づいた治療法の普及にも力を入れました。う蝕治療だけでなく、象牙質知覚過敏症や酸蝕歯といった、現代社会における口腔疾患への対応についても、深い知見を提供しています。

学会活動

田上氏は、日本の歯科関連学会において極めて活動的であり、多くの学会で重要な役職を歴任してきました。特に、歯科治療の見た目の美しさを追求する日本歯科審美学会と、歯質と修復材料の接着技術を扱う日本接着歯学会では、それぞれ会長を務めた経験があります。これらの学会でのリーダーシップは、それぞれの分野の学術的な発展や臨床技術の普及に大きく貢献しました。さらに、日本歯科保存学会では元常任理事や理事、日本歯科理工学会、日本歯科医学教育学会、日本レーザー歯学会でも理事を務めるなど、幅広い分野で学会運営に関与しました。口腔病学会では会長を務めています。その他、日本歯科医療管理学会、日本細菌学会、日本小児歯科学会、国際歯科研究学会など、国内外の多様な学会に所属し、研究者間の交流促進や最新情報の共有に努めています。国際的には、Academy of Dental Materialのフェローとしても活動しています。

著作

自身の研究成果や豊富な臨床経験に基づき、数多くの著作を発表しています。これらは単著、共著、編著、監修と多岐にわたり、保存修復学、接着歯学、う蝕学、歯科材料学など、専門分野の知識を広く伝えるための重要な媒体となっています。代表的なものとしては、歯科保存修復学に関する教科書や、接着修復、コンポジットレジン、う蝕学などをテーマとした専門書、さらには歯科技工士向けの教育資料などがあります。これらの著作は、歯科医学を学ぶ学生や、日々の臨床を行う歯科医師、歯科技工士にとって invaluable な情報源となり、日本の歯科医療全体のレベルアップに寄与しています。また、一般向けの啓発書にも携わるなど、専門知識を社会に還元する活動も行っています。

まとめ

田上順次氏は、東京医科歯科大学での教育・研究活動、国内主要学会での指導的な役割、そして多数の専門書・教科書の執筆を通じて、日本の歯科医学、特に歯科保存学や接着歯学分野の発展に多大な貢献をしてきました。その活動は、現代の歯科医療におけるMinimal Interventionの概念の確立と普及、そしてより高度な歯質保存治療の実現に不可欠であり、多くの人々の口腔健康の維持・向上に繋がっています。今後も、その知識と経験をもって、日本の歯科医療のさらなる発展に貢献していくことが期待されています。

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