田中親美

田中 親美（たなか しんび）

田中親美（たなかしんび、1875年4月9日 - 1975年11月24日）は、日本の美術研究家、日本画家、書家、料紙製作者として名高い人物です。特に彼は古筆や古絵巻の研究において第一人者とされ、多くの文化財の模写を通じて平安朝美術の普及に大きく寄与しました。

人と芸術の関わり

彼は京都に生まれ、父は大和絵師である田中有美、母はいとの間の長男でした。実名は茂太郎（しげたろう）で、若い頃から書道の道を志し、その師となった多田親愛に学びました。この師の指導を受けて彼は古筆の模写を始め、この活動が彼の芸術家としての道を開くことになるのです。

田中親美は、大口周魚との出会いを契機に、西本願寺本三十六人家集の美しい料紙に魅かれ、その複製製作に情熱を注ぎました。模写は書だけに留まらず、絵画にも広がりました。彼は「紫式部日記絵巻」、 『源氏物語絵巻』、さらに 「平家納経」など、平安時代の重要な文化財の模写を数多く行い、約3000点に及ぶ作品を手がけたとされます。

特に彼の模写は単なる再現にとどまらず、筆致や料紙の質感、さらには損傷の状態までも再現するもので、その技術は神業とも評されました。彼は自己の制作した作品すべてにおいて、書は自ら手がけ、料紙製作は他者に任せるという分業体制を取りましたが、書道への情熱からすべての筆跡を自ら作り出すことにこだわっていました。

多くの交友と支援者

模写と研究を通じて、彼は多くの人々と交流を深めました。特に師匠の多田親愛、友人の益田孝、原富太郎との関係は深く、これらの人物への感謝の気持ちは死去するまで変わらなかったとされています。枕元には彼らの写真を飾っていたとも言われています。さらに、京都から東京に移る際に家族を助けた三条実美をはじめとする名士たちとの交流もありました。

研究と教育への貢献

晩年は後進の育成に尽力し、研究者や書家の弟子たちを招いて定期的に研究会を開催しました。自らが収集した古画や古筆を使い、直接触れることで学生たちに深い理解を促しました。この研究会は、彼の死後も長男や孫によって引き継がれ、彼の思想や技術が次世代に伝えられています。

賞と評価

田中親美は、1950年には文化財専門審議会の委員に任命され、1955年には紫綬褒章を受け、1960年には日本芸術院恩賜賞を受賞しました。また、1964年には勲四等旭日小綬章を受けるなど、数多くの栄誉に浴しました。彼の作品はただ模写として完成度が高いだけでなく、文化財の保全にも寄与するものとして高く評価されています。

家族とその後

親美の家庭も美術の道に進んでいます。息子の田中重は日本美術研究家として知られ、次男の田中高は建築家として成功しました。さらに、孫の田中順は様々な企業で重要な役割を果たしました。彼の家族は彼の遺志を受け継ぎ、芸術の発展に寄与しています。

彼の遺体は多磨霊園に埋葬されています。

参考文献

『田中親美 平安朝美の蘇生に捧げた百年の生涯』名宝刊行会、1985年
萩谷朴「人と芸術」「茶のあるくらし　なごみ」特集・田中親美　人と芸術、淡交社、1988年11月

関連項目

• - 日本の書道史
• - 多田親愛

外部リンク

• - 文化財研究所のリンク'>田中親美 - 東京文化財研究所

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