田中雅夫

田中 雅夫（たなか まさお）

田中雅夫は、大正元年（1912年）6月11日に東京で生まれ、昭和62年（1987年）11月7日に生涯を閉じた、日本の著名な写真評論家です。写真界で活躍した濱谷浩、濱谷了一の兄弟は、田中氏の実弟にあたりますが、田中氏自身は幼少期に養子に出たため、姓が「田中」となっています。兄弟のつながりは深く、実弟の濱谷浩の甥（田中氏にとっては甥にあたります）の中には、プロの歌手になった人物もいます。

東京高等工芸学校（現在の千葉大学工学部）を卒業後、写真の世界に深く関わっていきます。評論活動のみならず、写真の実践や編集者としての役割も担いました。

初期には写真家としても活動しており、その技法は繊細でありながら前衛的な手法を特徴としていました。昭和12年（1937年）には、実弟である濱谷浩とともに写真スタジオ「銀工房」を設立しています。また、日本の前衛芸術を牽引した瀧口修造らが組織した前衛写真協会にも参加し、当時の最先端の写真表現に関わりました。

編集者としては、写真月刊誌「日本カメラ」の編集長を務め、誌面を通じて写真の普及と啓蒙に努めました。さらに、日本の写真史を網羅した大規模な企画である「日本写真全集」（全12巻、小学館）の編集作業にも深く関わり、日本の写真遺産を後世に伝える重要な役割を果たしました。

評論家としての活動は多岐にわたり、その著作は写真史、技法、特定のテーマ（ヌード、風景など）に関するものから、これから写真家を目指す人への指南書まで広範にわたります。特に、写真におけるリアリズムや日本の写真史に関する著作は、この分野の研究において重要な位置を占めています。

昭和42年（1967年）には、写真の社会的な役割を重視する日本リアリズム写真集団の副理事長に選出されました。ここでは、田村茂理事長のもと、伊藤逸平、藤本四八といった他の写真家や評論家とともに、リアリズム写真の推進に貢献しました。

また、教育者としての顔も持ち合わせており、KPS（関東写真技術学校）で講師を務めました。秋山庄太郎、細江英公、植田正治といった日本を代表する写真家たちとともに教鞭をとり、多くの後進の育成に尽力しました。

田中雅夫は、須田一政の写真集「民謡山河」（2007年）において文章を寄せており、写真家との共同制作にも意欲的でした。また、「日本カメラ」誌上での長期連載（全24回）は、田中氏の文章と写真のコラボレーションであり、単なる評論にとどまらない、写真と言葉を融合させた作品とも言えます。

写真評論、編集、教育、そして自ら写真家としても活動した田中雅夫は、多角的な視点から日本の写真界の発展に寄与した功労者と言えるでしょう。

主な著作

『ヌードフォト入門』（アルス、1950年）
『写真におけるリアリズム』（日本カメラ社、1956年）
『写真一二〇年史』（ダヴィッド社、1959年）
『写真東京風土記』（毎日新聞社、1964年）
『組写真をどうつくるか』（ダヴィッド社、1969年）
『写真130年史』（ダヴィッド社、1970年）
『海外の写真家100人』（川上四郎と共著、ダヴィッド社、1975年）
『風景写真研究』（朝日ソノラマ、1976年）
『カメラマンになるには』（ぺりかん社、1979年）
『私の昭和写真史』（東洋書店、1980年）

関連作品

写真集『民謡山河』（須田一政 写真、冬青社、2007年） - 田中雅夫が文章を担当
月刊誌「日本カメラ」連載（全24回） - 田中雅夫の文章と写真によるコラボレーション

関連項目

ヌード写真
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