田崎草雲

田崎 草雲（たざき そううん）

田崎 草雲（たざき そううん）は、江戸時代末期から明治時代にかけて活躍した日本の南画（なんが）家です。1815年（文化12年）11月15日、足利藩の江戸藩邸（現在の東京都千代田区）にて、足軽二人扶持の祐筆、田崎恒蔵の長男として誕生しました。幼名を芸（うん）といい、後に字として草雲を用いました。この名は、本名の「芸」を二字に分けたものとも言われます。

幼少期より絵に才能を見せ、縁戚の金井烏洲（かない うしゅう）に学び、続いて当時の南画大家、谷文晁（たに ぶんちょう）に師事しました。

1835年、家督を継母の連れ子に譲るため足利藩を脱藩。各地を放浪した後、江戸で加藤梅翁（かとう ばいおう）に師事し「梅渓（ばいけい）」と号します。1843年に独立しますが絵は売れず、明代の画家、盛茂燁（せいもよう）の山水画研究に没頭しました。

梁川星巌（やながわ せいがん）との交流から画論や尊王思想への共感を深め、1850年頃には禅学に傾倒。「草雲」の号を用いるようになり、評価が高まり始めました。

1855年、妻を失い、翌年足利へ帰郷し藩絵師に復帰。1858年頃、尊王志士との交流で幕府の嫌疑を受けますが、遊歴して安政の大獄を回避します。幕末期には藩論を尊王で統一させ、「誠心隊」差図役として藩防衛に尽力しました。

明治に入り、1876年の第1回内国勧業博覧会で作品が高く評価されます。1878年には足利に草庵「白石山房（はくいしさんぼう）」を建て、多くの門弟を指導しました。酒屋との絵と引き換えの交流や、絵を求めるだけの人物には厳しく接した逸話も残ります。1890年には皇居杉戸絵を描き、同年帝室技芸員（ていしつぎげいいん）を拝命しました。

画壇での評価は必ずしも安定しませんでしたが、写実のため本草学を学ぶなど高い専門意識を持ち、世渡りもしつつ本分を貫く「江戸っ子」らしい「意地」が彼を大成させました。中央画壇との距離を置いた時期もありましたが、白石山房への来訪者は無下にせず、「不在」札は常に掲げていたといいます。帝室技芸員の拝命を固辞したエピソードもあります。

画業だけでなく武術にも長けた異色の人物でした。長身で剣術、柔術に巧みで、「あばれ梅渓」のあだ名や竹内雲濤との殴り合いの伝説があります。1854年には横浜でアメリカ軍水兵と喧嘩し倒した記録があり、異種格闘技戦の初期例とされる一方、史実性には異論も。この件は『姿三四郎』や『大菩薩峠』のモデルともいわれます。

山水画研究のため諸国を旅し、多くの人物と交流。国定忠治の唯一とされる肖像画を描いたことも有名ですが、忠治没後に記憶で描かれたとされます。博徒との交際も深く、諸国の親分衆に通じていたといわれます。

代表作に栃木県指定文化財の「絹本著色蓬莱山宮図」などがあり、門下からは小室翠雲ら多くの画家を輩出しました。1898年9月1日に死去。墓所は足利と栃木市にあります。1915年に従五位追贈。1968年には草雲美術館が建設され、その業績が今日に伝えられています。波乱の生涯と個性は、司馬遼太郎『喧嘩草雲』や中里介山『大菩薩峠』の田山白雲のモデルとなり、広く知られています。

2017年には肖像写真が発見され、確認されている写真は計7枚となりました。

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