田淵寿郎

田淵寿郎：近代都市名古屋の礎を築いた土木工学者

田淵寿郎（たぶち じゅろう）は、明治23年（1890年）に生まれ、昭和49年（1974年）に没した日本の土木工学者です。彼は、大正から昭和にかけて、都市計画の推進者として、日本の近代的な都市づくりに大きく貢献しました。特に、名古屋市助役として戦後の復興事業を主導し、今日の名古屋の都市構造の基礎を築いた人物として知られています。

生い立ちと初期のキャリア

広島県佐伯郡大竹村（現在の広島県大竹市）に生まれた田淵は、幼少期から船乗りを志していました。しかし、海軍兵学校の身体検査で心肺機能に異常が見つかり、その夢を断念せざるを得ませんでした。その後、兄の勧めで東京帝国大学工学部土木工学科に進学し、土木工学の道へ進むことになります。

大学卒業後、内務省に入省した田淵は、山形県や京都府で技術者として経験を積みました。その後、内務技監大阪土木出張所工務部長として、雄物川や紀ノ川の改修工事、琵琶湖の利水計画、和歌山港の築港、淀川低水路計画など、数々の河川事業に携わり、その才能を発揮しました。

戦災復興と名古屋の都市計画

昭和13年（1938年）には、日中戦争下の中国に渡り、上海や南京などの戦災地の復興を指揮しました。帰国後、名古屋土木出張所長として木曽三川の治水や今渡ダムの調整などに従事。さらに再び中国に渡り、黄河大洪水の復旧や華北政府技監として北京西郊の新都市計画の立案を担当するなど、国内外で幅広い活躍を見せました。

終戦後、引退を決意していた田淵でしたが、旧知の仲であった佐藤正俊名古屋市長に請われ、名古屋市の戦災復興事業を引き受けることになります。昭和20年（1945年）に名古屋市技監に就任（後に助役）、復興計画の中心人物として、大胆な都市改造を推し進めました。

田淵が打ち出した都市計画は、幅の広い道路を東西南北に走らせ、市内に点在していた墓地を一箇所に集約するというものでした。特に、現在名古屋名物となっている100m道路は、当初、その規模の大きさから「大風呂敷」と揶揄され、関係各所からの反対もありましたが、田淵は強い信念を持って交渉を続け、ついに実現にこぎつけました。この100m道路は、将来のモータリゼーションを見据えたものであり、今日の名古屋の交通インフラの礎となっています。

その後の活躍とレガシー

その後も、土地区画整理、地下鉄計画、鉄道立体化、名古屋港湾整備など、数々の都市計画を手がけ、戦後の名古屋市の発展に大きく貢献しました。その功績が認められ、昭和33年（1958年）には中日文化賞、昭和36年（1961年）には朝日賞を受賞。昭和41年（1966年）には、名古屋市の名誉市民第一号に選ばれました。

田淵寿郎の偉業は、現代の名古屋の都市構造に深く刻まれています。彼の先見性と実行力は、日本の都市計画史における重要な足跡として、後世に語り継がれています。

田淵の墓は平和公園にあり、高間宗道の墓と隣り合っています。

もう一度検索