田道間守

田道間守（たじまもり/たぢまもり）とは

田道間守は、『日本書紀』や『古事記』に登場する古代日本の人物です。『日本書紀』では「田道間守」、『古事記』では「多遅摩毛理」または「多遅麻毛理」と表記されます。彼は天日槍の後裔であり、三宅連（三宅氏）の祖とされています。現在では、菓子の神・菓祖として、また柑橘の祖神としても広く信仰されています。

田道間守の出自

田道間守の出自については、『日本書紀』と『古事記』で記述が異なります。『日本書紀』では、天日槍（新羅からの渡来人とされる）の玄孫で、清彦の子とされています。一方、『古事記』では、天日槍の玄孫である点は同じですが、多遅摩比那良岐（但馬日楢杵）の子とされ、清彦は弟とされています。

常世の国への派遣と悲劇

『日本書紀』によれば、垂仁天皇の命により、田道間守は「非時香菓（ときじくのかくのみ）」、すなわち橘を求めて常世の国へ派遣されました。彼は長い旅路を経て橘を持ち帰りましたが、その間に垂仁天皇が崩御していたことを知り、嘆き悲しんで天皇の陵で自殺したと伝えられています。

『古事記』でも同様に、田道間守は「登岐士玖能迦玖能木実」を求めて常世国に派遣されます。帰国後、天皇の崩御を知り、持ち帰った橘を大后に献上し、残りを天皇の陵に供えて悲嘆に暮れた後、自ら命を絶ったと記されています。

これらの記述から、田道間守が天皇への忠誠心と責任感に厚い人物であったことが伺えます。

関連する歌と伝説

『万葉集』には、田道間守の派遣伝承を前提とした歌や、彼を題材とした歌が収められています。これらの歌は、田道間守の物語が当時から広く知られ、人々に感動を与えていたことを示唆しています。

墓について

『日本書紀』や『古事記』には田道間守の墓に関する記述はありませんが、『釈日本紀』には、景行天皇が田道間守の忠義を哀れみ、垂仁天皇陵の近くに葬ったという記述があります。現在の奈良県奈良市にある宝来山古墳（垂仁天皇陵）の周濠内には小島があり、これが田道間守の墓であるとされています。ただし、考古学的な調査は行われておらず、その真偽は不明です。

後裔氏族

田道間守は三宅連（三宅氏）の祖とされています。三宅連は、天日桙命（天日槍）の後裔とされ、田道間守の物語は、三宅氏のルーツを示すものとして重要です。

考証

「たじまもり/たぢまもり」という名称は、「但馬国の国守（くにもり）」の意味とする説があります。また、「タチバナ」という名前は「タヂマバナ（田道間花）」の転訛とする説もあります。

田道間守の物語は、中国の神仙思想の影響を受けているとも指摘されています。果実や薬草を求めて異界に行く話は、世界各地で見られます。

また、田道間守の説話は、大和の橘の宮殿に出仕していた但馬の三宅連の祖先の説話として位置づける説もあります。

信仰

田道間守は、菓子の神・菓祖として広く信仰されており、特に中嶋神社（兵庫県豊岡市）では「田道間守命」として祀られています。この神社は、菓子の神として全国の菓子業者からの信仰を集めています。また、田道間守は橘（みかん等の柑橘類の原種）を持ち帰ったことから、柑橘の祖神としても知られています。

奈良県明日香村の橘寺の寺名は田道間守伝説に由来するとされ、和歌山県海南市の橘本神社は、田道間守が持ち帰った橘が最初に移植された地であると伝えられています。

まとめ

田道間守は、古代日本の歴史と文化に深く関わる人物であり、その物語は、日本の食文化や信仰に大きな影響を与えています。彼の生涯は、忠誠心、勇気、そして悲劇に彩られており、多くの人々に感動を与え続けています。菓子の神、柑橘の祖神としての信仰は、現代にも受け継がれ、その存在は今もなお、私たちの生活の中で息づいています。

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