田隅靖子

田隅靖子

田隅靖子（たすみ やすこ、1938年5月1日 - ）は、日本のピアニストであり、優れた音楽教育者として知られる。兵庫県に生まれ、音楽の道を志した。

学業においては、フェリス女学院短期大学を卒業後、国内外の著名な指導者に師事し、研鑽を積んだ。井口基成、三宅洋一郎、井上二葉といった日本の大家に加え、フランスのアンリエット・ピュイグ＝ロジェ、ポーランドのレギナ・スメンジャンカといった国際的なピアニストからも薫陶を受けたことは、その後の幅広い音楽活動の礎となった。

教育者としてのキャリアは、桐朋学園大学での非常勤講師を皮切りに始まった。その後、母校フェリス女学院で講師を務め、京都市立芸術大学へと移る。京都市立芸術大学では長年にわたり教授として教鞭を執り、多くの後進を育成した。2004年に同大学を退任後、名誉教授の称号を授与された。さらに、2006年から2012年まで京都女子大学でも教授を務め、教育者としての情熱を持ち続けた。

ピアニストとしては、主に活動拠点を関西に置き、国内外で精力的な演奏活動を展開した。そのレパートリーは広範に及び、フランス六人組や邦人作品、モーツァルト、ロシアおよび東ヨーロッパの作曲家たち、ブラームスといった古典から近現代まで多岐にわたる。特に、国内では「フランス六人組の夕べ」や「邦人作品によるリサイタル」、「モーツァルトの夕べ」などを開催し、多様な音楽を紹介した。ドイツやスイスといったヨーロッパの舞台でも活躍し、「ベートーヴェンの夕べ」や「クララとローベルトの夕べ」といった、作曲家やテーマに焦点を当てたリサイタルを行い、高い評価を得た。ライナー・ホフマン（ピアノ）やペーター・ダム（ホルン）といった著名な演奏家との共演も数多い。

演奏活動における特筆すべき点として、現代音楽への積極的な取り組みが挙げられる。ベルント・アロイス・ツィンマーマンの難曲『二台ピアノのためのモノローグ』の日本初演を手がけるなど、意欲的な試みを行った。また、特定のテーマや地域の音楽に光を当てる企画も行い、近年ではグルジア音楽に焦点を当てた演奏活動を展開するなど、常に新たな音楽への探求心を失わなかった。

2005年には、音楽を通じて歴史に向き合った重要な録音作品『アウシュヴィッツ鎮魂（レクイエム）』をリリースした。これは、アウシュヴィッツで命を奪われた若いユダヤ人作家が遺した曲を収録したもので、その演奏は犠牲者の心情を深く汲み取った表現として、聴衆や評論家から温かく迎え入れられた。

音楽教育と演奏活動に加え、文化振興にも貢献した。2009年から2019年までの10年間、京都コンサートホールの館長を務め、その運営と企画に深く関わった。

これらの長年にわたる活動と功績に対し、数々の栄誉が贈られている。1995年には藤堂音楽賞、1999年には「ショスタコーヴィチの夕べ」の企画・演奏に対して大阪文化祭本賞を受賞した。2005年には京都市文化功労者として顕彰され、2020年には京都府文化賞特別功労賞を受賞するなど、その貢献は広く認められている。

主な録音作品としては、1994年にリリースした『セザール・フランクピアノ作品集』、2005年の『アウシュヴィッツ鎮魂（レクイエム）』、同じく2005年の『ぞうのババール』、そして2011年の『京都ヴィルトゥオーゼン』などがある。これらのCDは、彼女の多様なレパートリーと深い音楽性を伝える貴重な記録となっている。

田隅靖子は、教育者として多くの才能を育て、演奏家として幅広い時代の優れた音楽を世に紹介し、さらに文化施設の運営者として地域の音楽文化の発展に寄与するなど、多角的な視点から日本の音楽界に大きな足跡を残している。

もう一度検索