甲山派

甲山派とは：北朝鮮政権内部抗争の歴史

甲山派（こうざんは）は、第二次世界大戦後、朝鮮半島北部で成立した北朝鮮において、重要な役割を果たした政治グループです。彼らは、金日成（キム・イルソン）率いる満州派（国外パルチザン派）と連携し、北朝鮮の建国と初期の統治に深く関与しました。しかし、その後の権力闘争の中で粛清され、歴史の舞台から姿を消すことになります。

甲山派の成立と活動

甲山派の領袖は、朴金喆（パク・クムチョル）でした。彼は、抗日運動の時代から金日成の部下として活動していたとされています。甲山派は、現在の両江道（リャンガンド）地域にあたる咸鏡南道（ハムギョンナムド）甲山郡（カプサングン）を中心に勢力を拡大しました。この地域は、満州国と国境を接しており、満州派との連携を密にする上で有利な地理的条件を備えていました。

甲山派は、満州派と協力して抗日運動を展開し、普天堡の戦い（ポチョンボのたたかい）などのゲリラ戦を繰り広げました。また、甲山工作委員会や朝鮮民族解放同盟といった組織の設立にも関与し、北朝鮮の建国に向けた基盤を築きました。

北朝鮮建国後の甲山派

北朝鮮の建国後、甲山派は政府や党の要職を占め、大きな影響力を持つようになりました。彼らは、パルチザンとしての経験だけでなく、知識人や専門家も多く抱えており、国の発展に貢献しました。また、南労党派、延安派、ソ連派など、他の派閥との権力闘争において、常に金日成を支持し、その地位を確立する上で重要な役割を果たしました。

最盛期には、朝鮮人民軍を除く主要なポストをほぼ掌握するほどに勢力を拡大し、朝鮮労働党内における第二の勢力と見なされるようになりました。満州派と一体化した「パルチザン派」として、北朝鮮の政治を主導した時期もありました。

甲山派の粛清

しかし、甲山派と満州派の関係は、徐々に悪化していきます。その背景には、他の派閥の粛清、経済政策の対立、そして金日成の独裁と個人崇拝への不満がありました。1960年代に入ると、甲山派は経済政策を批判し、市場経済を部分的に導入する「利潤中心のリベルマン経営方式」を提唱しました。しかし、この改革は金日成の反発を招き、党内抗争が激化する一因となりました。

1967年5月、金正日（キム・ジョンイル）の主導により、甲山派幹部の一斉粛清が開始されました。この粛清は「マグチャビ（一網打尽）」と呼ばれ、地方の党・行政機関の中堅幹部職の3分の2が空席になるほどの規模でした。朴金喆自身も、呉振宇（オ・ジンウ）からの批判を受け、自殺未遂を図った後、処刑されました。

粛清後、満州派は党の唯一の勢力となり、「党の唯一思想体系」を確立し、金日成の独裁体制を強化しました。

甲山派のメンバー

朴金喆（パク・クムチョル）：朝鮮労働党常任政治局員、同党中央委員会副委員長、同党書記
李孝淳（イ・ヒョスン）：朝鮮労働党常任政治局員、同党中央委員会副委員長、同党書記、対南工作担当
金道満（キム・ドマン）：朝鮮労働党宣伝扇動部長、同党書記
朴容国（パク・ヨングク）：朝鮮労働党国際部長、同党書記、朝鮮民主青年同盟委員長
許錫宣（ホ・ソクソン）：朝鮮労働党科学教育部長

文化事業における対立

甲山派は、北朝鮮初期の映画制作機関を掌握していました。しかし、朴金喆を英雄視する映画を制作したことが、金正日の不興を買いました。金正日は、映画メディアの力を利用し、金日成・金正日を称賛する映画を制作させました。

また、革命歌劇や歴史史観の扱いについても、朴金喆は「朝鮮民族全体を捉えるべき」と主張したのに対し、金正日は「金日成将軍伝説との一体化を大前提とすべき」と主張し、対立しました。この対立も、甲山派粛清の一因になったとされています。

関連事項

朝鮮民主主義人民共和国の歴史
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朝鮮労働党

甲山派の興亡は、北朝鮮の権力構造や政治史を理解する上で重要な出来事です。彼らの活動と粛清は、金日成の独裁体制確立の過程を示すとともに、北朝鮮の政治における派閥抗争の激しさを物語っています。

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