甲賀郡中惣

甲賀郡中惣の歴史と特徴

甲賀郡中惣（こうかぐんちゅうそう）は、戦国時代における甲賀地域の武士による自治組織です。この集団は、同じ苗字を持つ武士たちの連帯から構成されており、物事を合議によって決定する独自の政治システムを持っていました。特に、惣領家と庶子家（分家）が対等な立場で共存していた点が、この組織の特異性を示しています。

同名中と合議制

戦国の混乱期にあって、甲賀の地では侍身分を持つ土豪たちが「同名中」と呼ばれる同族集団を形成しました。この同名中では、惣領家と庶子家が並列に置かれ、その間に厳格な上下関係は存在しませんでした。構成員は同じ苗字を持つ者たちであり、その中には近隣の他家の土豪も含まれていました。これにより、地域内での重要な決定は合議制により行われ、多数決が基本となるとともに、意見がまとまらない場合には抽選によるくじ引きが採用されました。このように決定された事項は、「奉公中」と呼ばれる集団によって実行されました。

組織の成立と重要性

甲賀郡中惣が形成されたのは、永禄年間（1560年代）頃と言われており、これは伊賀の国一揆や織田信長の近江侵攻に対抗するために必要だったと考えられています。この組織は、地域の紛争を解決する機能を担い、大規模な郡組織としての役割を果たすことを目指しました。その結果、各小領主たちが集まって地方の問題を協議し、合意形成を行う姿は、当時の日本における非常に珍しい形態の政治でした。

終焉とその後

しかし、1585年（天正13年）に豊臣秀吉が地方の防衛責任者として堤を任命した際、堤が決壊したことから甲賀武士10名が所領を没収され、改易される事態となり、結果として甲賀郡中惣はその役割を終えることになりました。

甲賀郡中惣遺跡群

甲賀郡中惣の名残は現在でも残っており、特に城郭の遺跡群が存在します。惣領家と庶子家が対等な立場であった影響から、庶子家でも独自の城郭を築くことができました。しかし、特徴的なのは、城の規模があまり大きくはなく、ほとんどが似たような設計であった点です。これらの城は一辺が3〜50メートルの方形単郭構造を持っていますが、周囲の土塁は最大で8メートルに達するなど、戦国時代の山城としては一際巨大なものとなっています。

2008年には、滋賀県甲賀市から湖南市にかけての丘陵部に存在する甲賀郡中惣の遺跡の一部が国の史跡「甲賀郡中惣遺跡群」として指定されました。具体的には、甲南町新治地域にある寺前城跡・村雨城跡・新宮城跡・新宮支城跡・竹中城跡が含まれます。続いて2009年には、油日神社と矢川神社の境内がこの遺跡群に追加指定され、地域の歴史的価値が認知されることとなりました。

甲賀郡中惣の政治的システムや文化的遺産は、現在も地域に引き継がれ、その歴史は多くの人々に学びの機会を提供しています。

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