町野主水

町野主水（まちの もんど）

町野主水は、天保10年（1839年）に生まれ、大正12年（1923年）に没した幕末の会津藩士です。父は町野伊佐衛門閑栄、母はきと。通称は源之助、諱は重安といいました。彼は「最後の会津武士」と称されるほど、会津藩の精神を体現した人物でした。

生涯

主水は幼少の頃から槍術に優れ、弟の久吉と共に鍛錬に励みました。その腕前は、鴨居に吊るした半紙を槍で突いても、半紙が微動だにしないほどだったと言われています。

元治元年（1864年）、京都守護職本陣へ向かう途中で桑名藩士を斬り、入牢するという事件を起こしますが、禁門の変の際には牢を破り、一番槍を目指します。窪田伴治に続き飯河小膳とともに二番槍の功名を挙げますが、越後国蒲原郡津川で謹慎を命じられます。

慶応4年（1868年）、御蔵入奉行兼幌役として越後の小出島に赴任。三国峠を守備しますが、4月24日の戦いで実弟・久吉を失います。その後、越後戦線を転戦し、8月11日には佐川官兵衛の後任として朱雀士中四番隊長に就任。しかし、鶴ヶ城下に官軍が侵攻したとの報を受け、急ぎ帰城します。熊倉の戦いで会津軍を勝利に導いた後、一ノ堰の戦いでは萱野長修の命により、樋口源助と共に鶴ヶ城に入城し、藩主・松平容保に米沢藩からの降伏勧告を伝えます。

悲劇はこれに留まりません。9月7日、主水の母・きと、妻・やよ、姉・ふさ、長女・なを（7歳）、長男・源太郎（3歳）の5人が、家僕の誤った戦況報告により河沼郡坂下勝方寺の裏山で自刃。叔母・南摩勝子は2人の男子を刺し自害するという痛ましい出来事が起こります。特に、7歳の長女なをが怖がって泣くのを、「お城にいらっしゃるお父様のご無事をお祈りしましょう」と諭し、手を合わせ瞑目した瞬間を、配下の大竹豊之助が涙ながらに介錯したという逸話は、会津戦争の悲劇を象徴するものとして語り継がれています。

開城後、主水は新政府軍から「若松取締」に任じられ、伴百悦らと共に戦死者の埋葬に尽力します。会津松平家の再興の際、立藩の地を猪苗代盆地か下北半島かで選択を迫られた際には、猪苗代を強く推しましたが、山川浩らの主張が通り、斗南藩として再興されることになります。

明治維新後、主水は斗南へは移住せず、若松北小路に居を構え、復興に尽力します。明治6年（1873年）には、陸軍省が売りに出した鶴ヶ城を862円で落札しますが、翌年には取り壊されてしまいます。その後、鹿島県（佐賀県）の土木課御用掛などを務めました。

自由民権運動が高まる中、明治15年（1882年）には会津帝政党を設立。晩年は、戊辰戦争の慰霊事業に尽力しました。大正12年（1923年）、85歳で没。遺言により、遺体は菰で覆われただけの簡素な状態で墓所まで運ばれました。これは、「自分の死後は、城下に放置されていた旧藩の人々と同じように葬って欲しい」という主水の遺志を尊重したものでした。

人物

町野主水は、武士道を重んじ、会津藩への忠義を貫いた人物でした。戊辰戦争での悲劇的な体験を経て、戦後は故郷の復興に尽力し、人々に慕われました。その生涯は、会津武士の鑑として、今も語り継がれています。

実弟・久吉の槍は山県有朋の手に渡っていましたが、品川弥二郎が「山県から取り返してやろうか」と申し出た際、「戦場で敵に奪われた槍を畳の上で受け取れるか」と断ったというエピソードは、彼の武士としての誇り高さを示すものとして知られています。

系譜

町野家は、平安時代中期の三善清行を祖とする名門です。鎌倉幕府の問注所執事・三善康信から数えて、主水は十四代目の当主にあたります。室町時代には評定衆を務め、戦国時代には蒲生氏に仕えました。本能寺の変の際には、蒲生賢秀に従い、明智光秀に抵抗したことで知られています。

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