異脳王

異脳王（いのうおう）

異脳王（生没年不詳）は、古代国家・大加耶の第9代の王として知られています。別名として、已富利知加（いふりちか）、已能末多干岐（いのまたかんき）とも呼ばれています。

生涯

異脳王は大加耶の初代王である伊珍阿豉王（いじなあしおう）から数えて8代目の子孫にあたります。正妃は新羅の伊飡（イチャン、2等官）である比助夫（ひじょぶ）の娘を迎えました。そして、第10代の王となる月光太子（げっこうたいし）を息子に持ちました。

治世

6世紀前半、朝鮮半島では百済が伽耶諸国への進出を強めていました。百済は倭国からの支援を取り付け、大伽耶の己汶（きぶん）、多沙（たさ）を支配下に置きました。このような状況下で、異脳王は外交戦略を展開します。

522年、異脳王は新羅の法興王（ほうこうおう）に使者を送り、婚姻による同盟を提案しました。この婚姻同盟は成立し、新羅と大伽耶は同盟関係を結ぶことになりました。

しかし、529年には新羅との関係が悪化します。新羅出身の王妃に仕えていた従者を本国へ送還したことがきっかけでした。『日本書紀』によれば、従者の衣冠が加羅式から新羅式に変更されたことが理由とされています。この事件により、大伽耶と新羅は断交に至りました。

新羅と対立する一方で、異脳王は倭国との友好関係を構築しました。529年、異脳王は倭国の大伴金村（おおとものかなむら）に新羅防衛への協力を依頼し、近江毛野（おうみのけな）が大伽耶と新羅の仲裁を試みました。しかし、仲裁は失敗し、任那（みまな）が新羅によって侵略されるという事態を招きました。530年、異脳王は倭国の継体天皇（けいたいてんのう）に対し、近江毛野の無策を訴え、近江毛野は召還されました。これにより、倭国と大伽耶の結びつきは弱まり、その後、大伽耶は百済との関係を強化していくことになります。

異脳王の治世は、大伽耶が周辺諸国との関係の中で生き残りを図った、激動の時代であったと言えるでしょう。

参考文献

小和田泰経『朝鮮三国志 高句麗・百済・新羅の300年戦争』新紀元社、2012年7月24日。ISBN 4775310518。
「アジア人物史 2」集英社、2023年

関連項目

* 朝鮮の君主一覧

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