癪

癪（しゃく）とは何か

癪（しゃく）とは、近代以前の日本において、原因が特定できない疼痛を伴う内臓疾患を指す言葉でした。積（せき）とも呼ばれ、疝気（せんき）とともに疝癪（せんしゃく）という言葉も使われていました。

癪の概念

平安時代に書かれた医学書『医心方』には、陰陽の気が内臓の一部に集積し、腫塊となって様々な病状を引き起こすと記されています。この考え方では、内臓に溜まった気が腫瘤となることが癪の原因とされていました。

徳川家康も晩年に「腹中の塊」に悩まされたという記録が残っています。医師・片山宗哲の記録によれば、この腹中の腫塊、すなわち癪の正体は、日本人の代表的な死因である胃癌であったとする説が有力です。

多様な癪の種類

しかし、胃癌の症状とは異なる「癪」の存在も知られていました。特に、下腹部や下半身の内臓の痛みを「疝気」と呼んだのに対し、胸部や上半身の内臓の痛みを広く癪と呼んでいました。そのため、心筋梗塞や腹膜炎、痙攣を伴うヒステリーなどの精神的な疾患も、原因が特定できない場合は広く「癪」として扱われていたと考えられます。

時代劇の中の癪

時代劇や落語などで、「持病の癪が…」という台詞がよく用いられます。この台詞に出てくる「癪」は、胸や腹のあたりに起こる激痛の総称として使われています。胆石症、胃痛、虫垂炎（盲腸）、生理痛などからくる腹痛など、様々な痛みが癪と呼ばれていました。

現代医学との違い

現代医学では、原因不明の内臓疾患を一括りにして「癪」と呼ぶことはありません。それぞれの症状に応じて、適切な診断と治療が行われます。しかし、昔の人々が感じていた体の不調や苦しみは、現代医学では解明できない部分も残されているかもしれません。

参考文献

立川昭二「癪」（『日本史大事典 3』（平凡社、1993年） ISBN 978-4-582-13103-1）

関連項目

癇癪（かんしゃく）

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