白山 (花街)

白山花街の歴史

白山花街は、かつて東京都文京区白山一丁目に存在した花街です。その起源は明治時代に遡ります。江戸時代には「指ヶ谷」と呼ばれ、小役人屋敷が並んでいたこの地は、明治期に入ると農地として開墾されました。

花街の誕生

明治20年頃、農地を開発した跡地に、明治27年（1894年）に銘酒屋（売春を伴う飲食店）が開業したことが、白山花街の始まりです。当初は、陸軍造兵廠東京工廠（現在の東京ドーム敷地）で働く工員や不良が集まる場所でした。当時、この地域に住んでいた作家の樋口一葉も、その賑わいを『にごりえ』で描いています。

花街への転身

明治45年（1912年）になると、銘酒屋街は芸妓のいる花街へと転身します。この転身を主導したのは、酒屋兼居酒屋を経営していた秋本鉄五郎でした。秋本は、指ヶ谷に花街を設立し、私娼や無頼の徒を排除することを目指し、明治41年（1908年）から6年間にわたり警視庁に指定地許可を申請しました。政治家の大井玄洞や鳩山和夫（鳩山一郎の父、鳩山由紀夫の曾祖父）の協力を得て、6年後の明治45年6月に正式に許可が下りました。指ヶ谷は、指定地制度が制定されてから最初の花街となり、大正から昭和初期にかけて許可された花街の先駆けとなりました。

花街の発展

許可後、組合が結成され、隣接する白山神社から名前を取り、「白山三業組合」と名付けられました。料理屋、待合、芸妓置屋が次々と開業し、大正元年（1912年）9月には、置屋78軒、待合5軒、料理屋10数軒、芸妓30数名を数えました。大正4年（1915年）3月には、秋本鉄五郎が三業組合を三業会社に変更し、自ら社長に就任しました。交通機関の発達に伴い、花街はさらに繁栄し、大正9年（1920年）には、待合59軒、置屋96軒、芸妓348名にまで増加しました。大正11年（1922年）には、上野公園で開催された大正博覧会の余興に白山芸妓が出演し、喝采を浴びました。

関東大震災と戦時下

大正12年（1923年）9月1日、関東大震災が発生し、東京市内の多くの花街が被災しました。被災した芸妓や経営者たちは、白山に避難し、営業を再開しました。大正13年（1924年）4月、秋本鉄五郎が死去し、養子の秋本平十郎が組織を継ぎ、2階建ての新見番が完成しました。昭和2年（1927年）には、花街の指定地が拡張され、路地の石畳が整備されました。しかし、昭和12年（1937年）頃から戦争が激化し、芸妓や業者は軍隊の慰問や接待を行うようになりました。昭和20年（1945年）3月の東京大空襲では幸いにも被害を免れ、同年8月に終戦を迎えました。この時、白山には117名の芸妓がいました。

戦後の混乱と終焉

終戦直後の昭和20年（1945年）8月22日、特殊慰安施設協会（通称RAA）が発足し、戦災を免れた白山には接待所と82名の接待婦が置かれ、外国人相手の営業が行われました。しかし、梅毒が蔓延したため施設は閉鎖され、白山花街は戦前の賑わいを取り戻すことはありませんでした。昭和22年（1947年）には、各業種（芸妓置屋、待合、料理屋）による白山互業組合が結成され、昭和25年（1950年）には三業組合と名称を改め、後に新興株式会社、三業株式会社へと組織変更されました。昭和47年（1972年）には料亭22軒、昭和52年（1977年）には料亭12軒、芸妓20名にまで衰退し、昭和54年（1979年）から昭和55年（1980年）にかけて組合は解散し、花街としての歴史に幕を閉じました。

現在の白山

平成30年（2018年）現在、白山には花街時代の建物や路地が一部残されており、その歴史を今に伝えています。

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