百瀬慎太郎

百瀬慎太郎：登山家・歌人・事業家の生涯

百瀬慎太郎（ももせ しんたろう）は、1892年に長野県大町市で生まれた登山家であり、事業家、短歌を詠む歌人としても知られています。彼の戸籍名は「百瀬愼太郎」で、家族は地元の旅館「對山館」を営んでいました。慎太郎は、旧制大町中学に在籍していた頃、白馬岳に2度も登る経験をし、その山々の魅力に深く惹かれるようになりました。1900年には、日本山岳会に入会し、本格的な登山活動を始めました。

慎太郎は、家業の旅館経営の合間を縫いながら、1917年に「大町登山案内人組合」を設立しました。この組合は、中世の山岳信仰とは異なる新たな形の山岳ガイド組織として日本初のものであり、多くの登山者の便宜を図りました。特に、増加する登山者に対応するために「日本アルプス登路案内図」を作成し、1925年には大沢小屋、1930年には針ノ木小屋を建設・経営するなど、登山文化の発展にも寄与しました。

その活動の中で、彼は槇有恒や辻村伊助といった他の登山家とも交流を持ちました。特に、1923年3月に伊藤孝一や赤沼千尋らと北アルプスの冬季横断を成功させた際は、その登山技術の高さを示しました。彼の登山活動は、単なる趣味にとどまらず、多くの人々に山の魅力を伝える役割を担っていました。

晩年には、若山牧水の影響を受け、多数の短歌や随筆を執筆しました。特にその中の一詩「山を想えば人恋し、人を想えば山恋し」は、多くの登山家の心に響く作品となりました。1949年、彼は食道癌により58歳でこの世を去りますが、その功績は今なお語り継がれています。

彼の死後、大町市内の信濃大町駅前や大沢小屋前には慎太郎を讃える記念碑が建立され、毎年6月には大町市で「針ノ木岳慎太郎祭」という夏山安全祈願祭が行われています。さらに、2017年には大町山岳博物館で「北アルプスの百年 百瀬慎太郎と登山案内人たち」という特別展が開催され、彼の功績とともに登山案内人組合の歴史が紹介されました。

慎太郎の作品には、1931年に発表した「案内人風景」があり、これは『文藝春秋』に掲載されました。また、遺稿集「山を想へば」は1962年に発行され、彼の思考や登山に対する情熱が詰まった貴重な資料となっています。1993年には、「山を想えば人恋し 北アルプス開拓の先駆者・百瀬慎太郎の生涯」が著され、彼の全貌が語られています。これらの作品は、登山という活動を通じて彼がどれだけ多くの人々に影響を与えたかを示すものといえます。

百瀬慎太郎は、その生涯を通じて登山文化の発展に貢献し、多くの人々に愛される存在となりました。彼の業績は、今後も登山者や登山愛好者に勇気とインスピレーションを与え続けることでしょう。

もう一度検索