百貝岳

百貝岳（ひゃっかいだけ）

百貝岳は、奈良県吉野郡黒滝村にそびえる山で、広大な大峰山脈の一角を占めています。古くから「鳥栖（とりすみ）山」とも呼ばれましたが、特に「百螺岳」という別名が広く知られており、この名前には興味深い伝説が紐づいています。

地理と周辺環境

この山は、修験道の聖地として名高い吉野山の最も奥深い場所に位置し、青根ヶ峰から西へ伸びる尾根上にあります。山の西斜面には、古くからの集落である鳥住（とりすみ）が広がっており、集落と山頂の間には、地域の人々に親しまれる鳥住春日神社や、歴史ある鳳閣寺が建立されています。鳳閣寺は、平安時代に活躍した理源大師聖宝（聖宝理源大師）が開いたと伝えられており、山岳信仰とも関わりの深い寺院です。

名の由来と伝承

百貝岳が「百螺岳」と呼ばれるようになった背景には、理源大師聖宝による大峯山開山の故事があります。宇多上皇の勅命を受けた聖宝が、巨大な大蛇によって閉ざされていた大峯山の道を開こうとした際、この山の頂に立ち、法螺貝を吹き鳴らしました。その音が山々に響き渡り、まるで百もの法螺貝が一斉に鳴り響いているかのように聞こえたといいます。この不思議な法螺貝の音に誘われるかのように、大蛇は山に向かってやって来ました。聖宝は自らの法力をもって大蛇を呪縛し、動けなくしました。そして、聖宝に付き従っていた箱屋勘兵衛が、大きな鉞（まさかり）を振るって大蛇を斬りつけ、見事に退治したと伝えられています。この、法螺貝の音で大蛇を誘き出し退治した伝説が、この山が百螺岳（百貝岳）と呼ばれる所以とされています。鳳閣寺には、この伝説に登場する大蛇のものだとされる動物の骨が、今も大切に保管されています。

登山ルート

百貝岳へは、いくつかのルートで登ることができます。現在、地蔵峠からは鳥住春日神社まで自動車が通行可能な道路が整備されており、このルートを利用して神社までアクセスし、そこから鳳閣寺を経由して山頂を目指すのが一般的です。

鳳閣寺から山頂への道は主に二つあります。

一つは、鳳閣寺の庫裏の裏手から始まり、理源大師聖宝の墓所とされる廟塔を経て山頂に至るルートです。
もう一つは、鳳閣寺の本堂の脇を通り、山腹を進んで金峯神社へと続く登山道の途中から、山頂方面へ分岐するルートです。

これらのルートはいずれも距離が2キロメートル以内と比較的短いです。よりポピュラーな登山コースとしては、吉野山の金峯神社を起点とする尾根伝いのルートが挙げられます。金峯神社から尾根道を歩き、百貝岳山頂に到達した後、帰りは聖宝の廟塔を経由して鳳閣寺へと下る周遊コースがおすすめです。このルートの場合、金峯神社から山頂を経て鳳閣寺まで、おおよそ1時間程度の行程となります。

もう一度検索