皇円

皇円について

皇円（こうえん）は、平安時代後期の天台宗の僧侶で、正字では皇圓と表記されます。肥後阿闍梨（ひごあじゃり）とも呼ばれ、浄土宗の開祖である法然の師としても知られています。熊本県玉名市の出身で、王朝末期に編纂された歴史書『扶桑略記』の著者でもあります。また、浄土宗の僧侶で多念義を唱えた隆寛は甥にあたります。

皇円は、弥勒菩薩が未来に現れて衆生を救うまで、自身が修行を続け衆生を救済しようと決意し、静岡県桜ヶ池に龍の姿で入定したと伝えられています。桜ヶ池の畔にある池宮神社では、秋の彼岸の中日に赤飯を池に奉納する「お櫃納め」という行事が行われています。また、皇円を本尊として祀る熊本県玉名市の蓮華院誕生寺では、皇円大菩薩、あるいは皇円上人として人々の信仰を集めています。

生涯

皇円の生年は不明ですが、嘉応元年（1169年）に96歳で亡くなったとされることから、承保5年（1074年）頃の生まれと考えられています。関白藤原道兼の玄孫にあたり、豊前守藤原重兼の子として肥後国玉名荘（現在の熊本県玉名市築地）で生まれました。兄は少納言藤原資隆で、母親は玉名の豪族、大野氏の娘とも推測されていますが、詳しいことは分かっていません。

幼くして比叡山に登り、椙生流の皇覚のもとで出家し、顕教を修めました。その後、密教を成円に学び、二人の名前から一字ずつ取って皇円と名乗ったとされています。比叡山の功徳院に住み、その博識さから肥後阿闍梨と尊称されました。浄土宗の開祖である法然も、皇円の下で学びましたが、後に離れています。

皇円は学僧としてだけでなく、歴史家としての才能も持ち合わせており、『扶桑略記』を著しました。『扶桑略記』は、日本で最初の編年体の歴史書として知られ、神武天皇から堀河天皇までの歴史を、特に仏教の伝来や発展、神社仏閣の縁起を中心に記述した貴重な資料です。

皇円の事績に関する同時代の直接的な記録はほとんど残っておらず、鎌倉時代末期に編纂された法然に関する『拾遺古徳伝』や『法然上人絵伝』に頼らざるを得ないのが現状です。これらの記録によると、皇円は嘉応元年（1169年）6月13日に、遠州桜ヶ池で大蛇の姿となり入定したとされています。これは、平安時代末期に広まった弥勒下生信仰、つまり弥勒菩薩が釈迦入滅後56億7千万年後に現れて衆生を救済するという信仰に基づき、その時まで菩薩行を続け衆生を救済するという願いを立てたものと考えられています。

遠州桜ヶ池は、現在の静岡県御前崎市浜岡にあり、直径約200mの堰き止め湖です。湖畔には瀬織津姫命を祭神とする池宮神社があり、桜ヶ池の主神として皇円阿闍梨大龍神も祀られています。また、約10km離れた応声教院には、大蛇の鱗とされるものが祀られています。

蓮華院誕生寺の再興

皇円の生誕地である熊本県玉名市築地には、鎌倉時代に恵空によって高原山蓮華院浄光寺が建立されましたが、戦国時代に焼失しました。その後、約350年の間に伽藍は朽ち果て、築地や南大門といった地名、そして2基の五輪の塔が残るのみとなっていました。

1929年（昭和4年）12月、当時荒尾市に住んでいた祈祷師の川原是信が、築地の村人から地霊を鎮めるように頼まれ、この地を訪れました。寺伝によると、是信が草堂で経を唱えていると、皇円から「私は760年前に遠州桜ヶ池に龍身入定した皇円である。今、願いが成就したので、その功徳を授ける。よって、今から衆生済度と蓮華院の再興に尽力せよ」との霊告を受けたそうです。これにより、是信は霊能を増し、衆生済度に努めるとともに寺院の再興に取り組みました。

再興された寺院は、本尊を皇円大菩薩とし、皇円の生誕地であることから蓮華院誕生寺と名付けられました。現在は、川原是信から三代目の住職が継いでおり、蓮華院誕生寺は奈良西大寺を本山とする真言律宗の別格本山として、本堂、五重塔、多宝塔、南大門、庫裏などの伽藍を整え、築地から北に4km離れた小岱山中に奥之院を構えています。

関連情報

関連項目
扶桑略記
蓮華院誕生寺
瀬織津姫
善光寺阿闍梨池
外部リンク
* 蓮華院誕生寺

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