皇宮警察 (宮内省)

皇宮警察：天皇と皇族を守る、特別な警察組織

明治時代から昭和21年（1946年）まで存在した皇宮警察は、宮内省に属する独自の警察組織でした。現代の皇宮護衛官の先駆けと言える存在ですが、一般的な警察組織とは異なる点が多くあります。特に重要な違いは、犯罪捜査などの司法警察権を有していなかった点です。その歴史、組織、そして特徴を詳しく見ていきましょう。

創設と役割：近衛兵からの転換

皇居の警備は、当初近衛兵が担っていました。しかし、徴兵制による兵士の入れ替わりが激しいため、宮内省との連携に課題がありました。1878年（明治11年）の竹橋事件（近衛砲兵の一部による反乱）をきっかけに、宮内省は近衛兵に頼らない新たな警備組織の必要性を認識します。

1881年（明治14年）、宮内省に「門部」が設置されました。これは皇居の門の警備を主な任務とする組織で、創設メンバーには勤皇の志士が多く含まれていました。その後、1881年には消防科も設置され、皇居内の消防業務も宮内省が担うようになります。1886年（明治19年）、門部は「皇宮警察署」に改編され、警備と消防の両方を担当する組織へと発展しました。

皇宮警察官の職務内容は、現在の皇宮護衛官とほぼ同様、天皇・皇族の護衛や皇居の警備などでした。しかし、当時の日本では皇室は「聖域」とされ、犯罪は起こりえないという考えが根強かったため、司法警察権は付与されませんでした。これは、皇宮警察と他の警察組織との大きな違いです。

歴史の変遷：組織と権限の変容

皇宮警察は、時代とともに組織や役割を変化させてきました。1907年（明治40年）には「皇宮警察部」に改称され、1921年（大正10年）には宮内省大臣官房に移管されます。1923年（大正12年）には側近警衛のための特別警衛掛が設置され、一部の警官には拳銃の携帯が認められました。

五・一五事件（1932年）を機に、一般の皇宮警察官にも拳銃の携帯が許可されました。これは、皇室へのテロの危険性が高まったことを反映しています。1941年（昭和16年）、宮内省に警衛局が設置されると、皇宮警察はその下部組織となりました。第二次世界大戦後、1947年（昭和22年）には宮内省から内務省に移管され、警視庁皇宮警察部に改組されました。

組織構造：時代ごとの変化

皇宮警察の組織構造は、時代によって変化を遂げました。初期の皇宮警察署は、内勤部と外勤部から構成され、比較的シンプルな組織でした。その後、皇宮警察部となり、内勤課と外勤課、そして出張所などが設置されるなど、組織は複雑化していきます。警衛局が設置された時期には、庶務課、防空課、そして皇宮警察部（警衛課、警務課、消防課、衛生課）など、より専門的な部署が設けられました。

階級制度：官職と役割

皇宮警察には、明確な階級制度が存在しました。初期には門監、門部、消防長、消防手などの階級がありましたが、皇宮警察署、皇宮警察部へと組織が変化するにつれて、皇宮警察長、皇宮警視、皇宮警部、皇宮警手といった階級が制定されました。これらの階級は、それぞれの担当業務や責任の重さを示していました。

まとめ：皇室を守る特殊部隊

皇宮警察は、司法警察権を持たない特殊な警察組織として、明治時代から昭和21年まで天皇・皇族の安全と皇居の警備に尽力しました。近衛兵だけでは不十分だった皇居警備を担い、時代の変化に合わせて組織や役割を変化させながら、その使命を果たし続けました。現代の皇宮護衛官の礎を築いた皇宮警察の歴史は、日本の歴史を考える上で重要な要素の一つと言えるでしょう。

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