皇帝の夢

『皇帝の夢』（こうていのゆめ、ドイツ語: Des Kaisers Traum）は、オーストリア＝ハンガリー帝国の皇帝フランツ・ヨーゼフ1世の在位60周年を祝賀するために制作された1幕の戯曲です。1908年12月2日にウィーン宮廷歌劇場で初演されました。この日は、皇帝の即位からちょうど60年後の記念すべき日でした。

物語は、ハプスブルク家初の神聖ローマ皇帝ルドルフ1世を主人公としています。彼は王朝の礎を築いた人物であり、ある日、オーストリアの未来を深く憂慮します。ルドルフ1世は、自身が獲得した領土の行く末、息子たちの後継者としての資質、そしてハプスブルク家全体の将来について思案に暮れるうちに、玉座で眠り込んでしまいます。

すると、彼の背後から「未来」と名乗る精霊が現れ、その後何世紀にもわたるハプスブルク家の栄光を告げます。ルドルフ1世が未来の案内を求めると、「未来」は彼に五つの「夢の絵」を見せるのです。

1. ヤギェウォ家との婚姻協定（ウィーン二重結婚）を描いた絵：婚姻政策による勢力拡大を示唆します。
2. 皇帝レオポルト1世とポーランド王ヤン3世の会見（第二次ウィーン包囲の際のもの）を描いた絵：外交的成功を描いています。
3. 皇帝カール6世が娘のマリア・テレジアを後継者に宣言している様子を描いた絵：女性の力を象徴しています。
4. ピアノを弾く天才少年モーツァルトを称える、「女帝」マリア・テレジアとその16人の子女を描いた絵：文化と家族の繁栄を表現しています。
5. ナポレオン戦争後のウィーン会議を描いた絵：国際的な調停の場としてのウィーンを象徴しています。

これらの絵を通して、ルドルフ1世は婚姻政策、女性の力、巧妙な外交によって、自身の領土が維持・拡大されていく様子を目にします。彼は「朕も戦争に飽き飽きしているし、平和が結ばれるのを見て喜ばしい」と述べ、ハプスブルク王朝が平和な道を辿ることを支持し、舞台の幕が閉じられます。

この戯曲が初演された背景には、1848年革命の激化によるフェルディナント1世の退位と、フランツ・ヨーゼフ1世の即位がありました。フランツ・ヨーゼフ1世は、叔父の退位を受けて1848年12月2日に即位し、それから60年後の記念日にこの戯曲が上演されたのです。皇帝自身も大公たちと共に観劇し、この祝賀のひとときを過ごしました。

しかし、フランツ・ヨーゼフ1世の治世は決して平坦なものではありませんでした。ヴェネツィアやロンバルディアといった北イタリアの領土を失い、ドイツ連邦議長国の地位も失って統一ドイツから排除されるなど、かつての栄光は失われつつありました。また、絶え間ない民族問題にも悩まされ、オーストリアはヨーロッパの一流国から転落しつつあったのです。

政府の委員会から依頼を受け、援助を受けた作者は、平和という主題を強調することで、失われた帝国の栄光を覆い隠そうとしました。しかし、劇中に登場する「夢の絵」は、フランツ・ヨーゼフ1世の60年に及ぶ治世には一切触れていません。彼の在位を祝うための作品であるにもかかわらず、ウィーン会議をもって「未来」の案内は終わり、皇帝自身の治世は意図的に除外されているのです。

一見するとハプスブルク家の栄光を称えたこの戯曲は、皮肉にも帝国が衰退している事実を露呈する結果となりました。そして、この戯曲からわずか10年後の1918年、第一次世界大戦に敗北したハプスブルク帝国は、ついに崩壊の時を迎えるのです。

参考文献：
* ティモシー・スナイダー 著、池田年穂 訳『赤い大公―ハプスブルク家と東欧の20世紀』慶応義塾大学出版会、2014年4月25日。ISBN 978-4-7664-2135-4。

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