益信

益信の生涯と真言宗への影響

益信（やくしん）は、天長4年（827年）から延喜6年（906年）まで生きた平安時代前期の真言宗の僧であり、紀氏の出身です。彼は武内宿禰の血を引いており、備後国品治郡（現在の広島県福山市新市町）で生まれました。彼の父は山城守の紀魚弼であり、また彼の兄は京都の男山石清水八幡宮の開基であり、大安寺の僧行教でした。益信は弘法大師空海から第4世の直系にあたり、東密広沢流の祖とされています。彼の諡号は「本覚大師」とされており、彼に対する尊敬の念を表しています。

幼少期と出家

益信は、現在の小字で「正仁」と呼ばれる地域で品治家に生まれました。幼少の頃、彼は隣接する本坊に居を移し、吉備津神社本殿の裏にある洞穴を経蔵として独学に取り組んだと伝えられています。ここには他にも洞穴が存在し、地域の人々はそれらを「輪蔵」と呼んで親しんでいました。このため、彼は自然と学問へと興味を持って成長していきました。

奈良の大安寺で出家した益信は、その後元興寺の明詮に法相を、薬師寺の隆光に性相を学びましたが、さらに深く学びたいという思いから貞観寺を創建した空海の実弟真雅に師事しました。しかし、妨げとなっていた真雅が早くに死亡してしまいます。次に師としたのは後の入唐僧正宗叡でしたが、再び密教の教授を受ける前に入寂してしまいました。

修験と昇進

これらの事情を聞き見た真言第3世源仁は、朝廷に阿闍梨位灌頂の待遇を求めました。仁和3年の正月29日、源仁は官符を受け取り、東寺の金剛峰楼閣で益信に阿闍梨位灌頂を授けました。その後、益信はさまざまな役職を経て、900年には僧正に昇進し、また昌泰2年には初代検校に任ぜられるなど、真言宗の重鎮としての地位を確立していきました。

宇多上皇との関係

益信は34歳の宇多上皇が仁和寺で出家する際に受戒の師となり、落飾した宇多上皇はその後、「寛平法皇」と名乗ります。その後も、延喜元年には法皇に伝法灌頂を授けるなど、益信は法皇との間に深い繋がりを持ちました。更に、延喜年間には法皇の養母が重病に悩まされ、益信は宮中に壇を設え、加持祈祷を行いました。その結果、養母は無事に回復し、益信への信仰が深まりました。

円成寺の設立と死

この後、養母は洛東に広大な山荘を建立し、益信を初代開山として迎え入れ、円成寺（圓城寺）が設立されました。益信はここで生涯を閉じ、円成寺の僧正としてその名を残しました。彼の死後、後二条天皇により長らく未決だった諡号「本覚」が与えられ、大僧正位も贈られることになりました。

益信の門流

益信の教えと影響は、広い範囲に広がり、彼の門流は京都洛西に発展した広沢流として知られています。小野流と並んで、のちには「野沢十二流」という密教の流派も形成され、益信の教えが代々受け継がれていきました。広沢流は仁和寺の仁和御流をはじめ、多くの派に受け継がれており、その影響力は現在に至るまで続いています。

以上のように、益信の生涯は真言宗における重要な一端を担い、彼の功績は多くの後代に影響を与え続けています。

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