紀氏(きうじ)について
紀
氏は、
古代日本の
大和国平群県紀里、今日の
奈良県生駒郡平群町近郊を拠点とした
氏族です。その名の通り「紀」を称し、初めは「
臣」という姓を名乗っていましたが、
天武天皇13年(
684年)に
八色の姓が定められた際、
朝臣に改姓されました。
起源と歴史
紀
氏の起源は、
記紀と呼ばれる
古代の文献によって伝えられています。彼らは
孝元天皇の子孫であり、
武内宿禰の子である紀角を祖先としていますが、この二代については共に母方が
紀伊国造家から出ているとされています。この関係から、紀
氏は早くから武門として大和王権に仕官していたと見られます。
具体的には、
雄略天皇の治世においては小弓、
顕宗天皇の時には大磐、
欽明天皇のもとでは男麻呂が登場し、主に
朝鮮半島での軍事活動や外交に活躍しました。紀
氏は葛城
氏や
巨勢氏、平群
氏と同様に
武内宿禰系の
豪族でしたが、
大化前代には大
臣を輩出しなかった点も注目されます。
天智天皇の時代には、大人が
御史大夫に就任し、奈良時代には麻呂が
大納言となり、麻路が
中納言、飯麻呂が
参議として活躍しました。さらに、贈
太政大臣の女橡姫と
志貴皇子の子である白壁王が
光仁天皇として即位すると、紀
氏は外戚としてより一層の繁栄を遂げます。
桓武天皇の時代までには、広純や家守が
参議としての地位を得、
大納言には船守や古佐美が登場するなど、紀
氏は引き続き影響力を持っていました。しかし、
平安時代初期には
藤原北家の台頭により、彼らの影響力は次第に薄れていきます。この時期以降、紀
氏の中から
公卿に昇進する者は途絶え、名虎の娘が後宮に入るも家運は好転せず、
応天門の変において夏井が配流されると、その後の一族は衰退します。
宇多天皇に重用された長谷雄の後、紀
氏は政治や軍事活動の機会をほとんど失いますが、淑望や在昌、さらには貫之や友則、時文といった文人や
歌人を輩出することに成功しました。
紀氏の末裔と系図
紀
氏の系統を受け継ぐ末裔には、
石清水八幡宮別当家である田長流や、下野に移住した清主の子孫である下野紀党(益子
氏)などが存在します。また、長谷雄の流れを称する池田
氏や信太
氏、細見
氏、大井
氏、中村
氏、品川
氏、春日部
氏、
堀田氏、浦上
氏、安富
氏、高安
氏等も紀
氏の子孫とされる家系です。
紀伊国造家は天元年間に男子が途絶えたため、長谷雄の曾孫である行義を後継として以降、
朝臣姓を名乗るようになりました。ただし、
中世以降の紀
氏には橘
朝臣姓を用いる者が多かったとも伝えられています。
系図の信頼性
紀
氏の系図に関しては、歴史文献『
尊卑分脈』や『
群書類従』に収録されている「紀
氏系図」は不正確な部分が多いため、慎重な扱いが求められます。本稿では、『
六国史』『
公卿補任』および『紀
氏家牒』に基づいて修正された系図を参考にしつつ、初期の部分や麻路、猿取、田長、長谷雄の位置付けについては議論の余地があることを付記しておきます。