目白文化村

目白文化村：大正ロマンの象徴、郊外住宅地の興亡

目白文化村は、大正時代から昭和時代にかけて、現在の東京都新宿区中落合を中心に存在した郊外住宅地の名称です。この一帯は、かつて武蔵野の豊かな自然が残る場所であり、その恵まれた環境と、モダンな西洋風の住宅が建ち並ぶ風景は、多くの人々の憧れでした。

開発の始まり

1914年、実業家の堤康次郎が、この地の有力な地主であった宇田川家から土地を購入したのが、目白文化村の開発の始まりでした。その後も、堤は早稲田大学や近衛家などの所有地を次々と取得し、自らもこの地に居を構え、箱根土地（後のコクド）や東京護謨（現在の西武ポリマー化成）といった関連会社も移転させ、大規模な開発を進めていきました。

文化村の誕生と発展

1922年6月、箱根土地が売主となり、第一文化村として分譲が開始されました。翌年には早稲田大学の所有地だった場所が第二文化村として分譲され、関東大震災を機に、地盤が強固なこの地に移り住む人が増えました。その後も、第三文化村、第四文化村、第五文化村と次々と分譲が進み、1927年には西武村山線が開通したことで、交通の便も向上しました。

文化村は、都心で働く人々が郊外でゆったりと暮らすという、新しいライフスタイルを象徴する場所となりました。西洋風のモダンな住宅は、大正ロマンの流行と共に、多くの人々の憧れとなり、新宿駅は、西側に住む人々のターミナル駅として発展を遂げました。

文化村の終焉

しかし、1935年より環状六号線の建設が始まり、文化村は東西に分断されてしまいます。さらに、第二次世界大戦中の東京大空襲により、住宅の大部分が焼失し、住宅地としてのまとまりは失われていきました。1967年には、新目白通りの開通によって、一帯はさらに縦横に分断され、かつての面影はほとんど残っていません。

文化村ゆかりの人々

目白文化村には、多くの文化人や著名人が住んでいました。箱根土地にいた建築家の河野傳は、一部の邸宅の設計を手がけ、後に国立駅駅舎を設計しました。小説家の吉屋信子は第二文化村に住み、界隈を散歩する姿が住民によく目撃されていました。また、林芙美子もこの地に住んでおり、現在、林芙美子記念館として公開されています。その他にも、歌人・美術史家の会津八一、ドイツ語学者の関口存男、建築家の吉武東里などが住んでいました。

現在の目白文化村

現在、目白文化村の面影はほとんど残っていませんが、おとめ山公園や佐伯祐三アトリエ記念館など、当時の雰囲気を残す場所も存在します。また、池袋モンパルナスと呼ばれた地域も近くにあります。この一帯を訪れると、かつての大正ロマンの面影を偲ぶことができるでしょう。

目白文化村は、日本の近代化と都市開発の歴史を物語る、貴重な遺産と言えるでしょう。

もう一度検索