関口存男

関口存男：多才な語学者が遺した足跡

関口存男（せきぐち つぎお、正字：關口存男、1894年11月21日 - 1958年7月25日）は、日本のドイツ語学者であり、その卓越した語学力から「不世出の語学の天才」と称されました。通称は、ドイツ語の「sondern（～ではなく）」にかけた「ゾンダン」。ドイツ語学に留まらず、新劇運動にも参加し、俳優としても活躍した多彩な人物です。

生涯

兵庫県姫路市に生まれた関口は、陸軍士官学校を卒業後、肋膜炎を患い休職。その後、上智大学、アテネ・フランセで学び、語学の才能を開花させます。アテネ・フランセでは仏語、ラテン語の教授を務めました。その後、外務省翻訳課、法政大学、慶應義塾外国語学校などで教鞭を執り、NHKラジオドイツ語講座を担当するなど、教育者としても幅広く活躍しました。

学者としての業績

関口は、留学経験がないにも関わらず、高度なドイツ語能力を身につけました。その流暢な発音と深い知識は、「ドイツ語の鬼」と称されるほどでした。彼の業績は、ドイツ語学界に大きな影響を与え、独自の文法理論は「関口文法」として知られています。

接続法の名称と教授法

関口は、接続法の名称を「接続法第1式」「接続法第2式」と改め、意味から出発して形を問題にする教授法を提唱しました。この方法は、現在のドイツ語教育の基礎となっています。

意味形態論

関口文法の根幹をなすのが「意味形態」という独自の概念です。これは、言葉の意味だけでなく、その言葉が持つ潜在的な機能や構造に着目するもので、彼の文法理論の中核をなしています。

例えば、「Als es donnerte und blitzte, war ich kaum draußen.」というドイツ語の文を、「戸外に出るや否や雷が鳴り稲光がし始めた」と解釈します。これは、形式上は主文である「Ich war kaum draußen」が、副文のような役割を果たしていると捉えるためです。

関口は、意味形態を3つのカテゴリーに分類し、特に「思想形態」を重視しました。これは、動詞が持つ本来の意味に加えて、文脈によって「machen（する）」のような機能を発揮するという考え方です。彼は、冠詞には意味がなく、意味形態しかないと主張し、前置詞の研究にもこの視点を取り入れました。

研究方法

研究のために膨大な文例を収集し、ドイツ語だけでなく、様々な言語の文例を分析しました。この文例集は、国際的な評価を受けるきっかけとなり、現在も研究者によって活用されています。

教育者としての貢献

関口は、初学者向けの教育に力を入れ、多くの教材を出版しました。NHKラジオドイツ語講座は、彼のライフワークの一つでした。教え子の一人である中村英雄は、関口が学生に初級文法を教えることを非常に大切にしていたと語っています。

演劇人としての顔

関口は、語学者、教育者としてだけでなく、演劇にも情熱を注ぎました。新劇の劇団「踏路社」を結成し、俳優として舞台に立ちました。映画芸術協会にも参加し、無声映画にも出演しました。

評価

日本のドイツ語学における関口の評価は必ずしも高くありませんが、近年、彼の業績は再評価されつつあります。関口文法は、現代の言語学にも影響を与え続けており、国際的な研究者によって研究されています。彼の文法理論は、言語学の新たな地平を切り開く可能性を秘めていると言えるでしょう。

著書

関口は多数の著書を執筆しました。

『冠詞- 意味形態的背景より見たるドイツ語冠詞の研究- 全3巻』
『関口存男著作集 -ドイツ語学篇全13巻-』

など

関口存男は、まさに多才な人物であり、その業績は多岐にわたります。彼の情熱と才能は、今もなお、多くの人々に影響を与え続けています。

もう一度検索