直流バイアス

直流バイアスとは

直流バイアス（DCバイアス）とは、時間領域で周期関数を記述する際に、その波形の平均値を指します。これは、波形における直流成分、直流オフセット、直流係数とも呼ばれます。平均振幅がゼロの場合、直流オフセットは存在しません。直流成分を持たない波形は、直流バランス（DC-balanced）または直流フリー（DC-free）な波形として知られています。

起源

この用語は、電子工学における直流電圧に由来します。直流電圧に対して、様々な非直流周波数は、重ね合わされた交流（AC）電圧・電流に類似しており、交流成分または交流係数と呼ばれます。この概念は、あらゆる波形の表現や、JPEGで使われる離散コサイン変換のような2次元変換にまで拡張されています。

応用

電子増幅回路

電子増幅回路の設計では、全ての能動素子は、信号が印加されていない時に動作点（定常状態の電流電圧）を設定するためにバイアスされています。例えば、バイポーラトランジスタのバイアスでは、トランジスタの制御端子であるベースにわずかな直流電流を印加するために抵抗回路網が用いられます。交流信号は同じ端子に印加され増幅されますが、バイアス回路網は交流信号をバイパスしないように設計されます。同様に、電界効果トランジスタや真空管を用いた増幅器もバイアス回路を持ちます。増幅器の動作点は、歪みや効率の特性に大きな影響を与えます。電力増幅器のクラスは、直流バイアスによって設定される動作点によって分類されます。

直流オフセットの問題点と対策

直流オフセットは、クリッピングなどの望ましくない変化を引き起こす可能性があるため、通常は避けられます。電気的な直流バイアスは変圧器を通らないため、単純な絶縁変圧器を用いて遮断・除去し、交流成分のみを残すことができます。信号処理の観点からは、ハイパスフィルタを用いて直流オフセットをリアルタイムで低減できます。デジタル信号の場合、各サンプルから平均振幅を差し引くことでオフセットを除去できます。非常に低い周波数は直流バイアスのように見えることがありますが、これは「ゆっくり変化するDC」または「ベースラインの揺れ」と呼ばれます。

通信システム

直流バランス信号は、容量性結合や変圧器を含む回路を通過する際のビットエラーを防ぐために、通信システムで使用されます。連続する1が、ハイパスフィルタとして機能するキャパシタを充電し、直流レベルを生成するとき、信号入力が誤って0レベルになるとビットエラーが発生する可能性があります。この種のビットエラーを避けるために、多くのライン符号は直流バランス波形を生成するように設計されています。代表的な直流バランスライン符号としては、定重み符号や対パリティなし符号があります。

オーディオ

録音の際、直流オフセットは望ましくない特性です。これは、レコーダーに届く前の音をキャプチャする際に発生し、通常は欠陥のある機器が原因です。オフセットにより、記録された波形の中心が0ではなく、わずかに上下にずれます。これは、信号の最も大きな部分がクリッピングされる、または聞こえない低周波の歪みが発生するなどの問題を引き起こします。低周波の歪みは、録音時には聞こえなくても、MP3などの圧縮形式にリサンプリングすると、顕在化することがあります。

初期のテープレコーダーでは、歪みを低減するために直流テープバイアスが用いられていました。また、パワー増幅器では、真空管の制御グリッドに直流バイアスを印加してパワーを調整します。

周波数選択

無線送信機などで用いられる電圧制御発振器（VCO）では、搬送波の中心周波数の選択に直流バイアスが用いられます。周波数変調（FM）の場合、交流成分はベースバンド音声信号に任意の副搬送波を加えたものです。周波数偏移変調は、直流バイアスを変更するだけで実現できます。

関連項目

バイアス (電子工学)
ファントムパワー
二乗平均平方根振幅
二乗平均平方根電圧

もう一度検索