相生由太郎

相生 由太郎（あいおい よしたろう）は、慶応3年4月28日（1867年5月31日）に現在の福岡県福岡市に生まれた。魚商を営む相生久次の長男として育った。

教育は地元で受け、福岡県立尋常中学修猷館を卒業。さらに高度な学びを求め上京し、明治29年（1896年）に東京高等商業学校（今日の一橋大学）を卒業した。

卒業後、相生は日本郵船や中学校教師など職を転々としたが、やがて実業界での才能を開花させる。

明治37年（1904年）、三井物産に入社し、門司支店に配属された。ここで彼は、ある炭鉱の労働者ストライキを見事に収拾し、その優れた交渉力と統率力を認められた。この一件がきっかけで、当時の門司支店長であった犬塚信太郎の知遇を得ることになる。

日露戦争後の明治39年（1906年）、戦後の満州経営を担う南満州鉄道株式会社（満鉄）が設立され、犬塚信太郎はその理事に抜擢された。犬塚は、当時混乱が極まっていた大連埠頭の荷役問題を解決できる人物として、相生由太郎を強く推薦した。

犬塚の推挙を受けて満鉄に入社した相生は、大連埠頭事務所長に就任する。それまで多くの業者が入り乱れ、非効率だった大連埠頭の荷役作業を、満鉄の直営体制に一本化するという難事業を見事に成し遂げた。この間の詳細な経緯は、作家・菊池寛の著書『満鉄外史』にも描かれている。

明治42年（1909年）、相生は満鉄を辞し、大連で自らの事業会社「福昌公司」を設立して社長に就任した。彼は満鉄が直営化した埠頭荷役業務を福昌公司が一手に引き受ける形で、事業を拡大した。

また、彼は埠頭で働く中国人労働者、いわゆる苦力たちのための収容施設「碧山荘」を建設した。この施設は、労働者に対し衛生的な環境、食事、宿泊場所、そして娯楽を提供することを目的としていた。

「碧山荘」は当時、労働者向け施設としては画期的なものと見なされ、内地からの修学旅行生が見学に訪れることもあったほどである。しかし、研究者である松原一枝氏の指摘によれば、施設内で阿片の吸引が行われていたなど、問題点も少なくなかったとされている。そのため、その歴史的な評価については、今後の研究によってさらに深められるべき側面がある。

福昌公司を設立した同じ明治42年（1909年）、相生の旧知であった文豪・夏目漱石が大連を含む満州・朝鮮を旅行した。漱石はこの旅の紀行文『満韓ところどころ』の中で相生に触れ、その横顔を描写している。漱石は相生のことを、親しみやすい表現で「仲士の親方をやっている」と記した。

実業家としての活動と並行して、相生は地域の発展のため公職も務めた。大正5年（1916年）から大正14年（1925年）までの長きにわたり、大連商業会議所（現在の大連商工会議所の前身）の会頭を務め、大連経済の振興に貢献した。

さらに、大連市会の官選議員や、関東庁の市制調査会員、経済調査会委員なども歴任し、多方面でその能力を発揮した。

昭和2年（1927年）には、息子の相生久夫が亡くなるという不幸に見舞われた。

相生由太郎は、昭和5年（1930年）1月3日にその生涯を閉じた。彼は明治末期から昭和初期にかけての満州において、実業家として、また地域の要人として、日本の経済活動に大きな足跡を残した人物である。

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