真岡銃砲店襲撃事件
真岡銃砲店襲撃事件（もおかじゅうほうてんしゅうげきじけん）は、1971年2月17日未明に発生した、日本共産党（革命左派）神奈川県委員会（京浜安保共闘）による強盗事件です。この事件は、当時新左翼組織が引き起こした一連の過激な活動の中でも特異な性質を持ち、後の連合赤軍による凄惨な事件群、特にあさま山荘事件へと繋がる重要な契機の一つと位置づけられています。
事件の根本的な背景には、革命左派が獄中にいた最高指導者、川島豪の奪還を至上課題としていたことがあります。組織の獄外最高指導者であった永田洋子と坂口弘は、川島からの奪還指示を受け、その具体的な実行計画を練りました。当初、彼らは外国領事館関係者など要人の誘拐を検討し調査を進めましたが、その困難さから断念しました。次に浮上した計画は、川島が裁判のために横浜拘置所から横浜地方裁判所へ護送される際に襲撃するというものでした。この護送襲撃計画を遂行するためには強力な銃器が必要であり、その入手が急務となりました。
銃器を獲得する方法として、革命左派はまず交番を襲撃して警察官の拳銃を奪うことを試み、1970年12月18日には上赤塚交番襲撃事件を起こしましたが、これは失敗に終わりました。交番襲撃の断念後、狩猟中のハンターから銃を奪う計画も検討し調査を行いましたが、最終的に比較的容易に大量の銃器が手に入ると考えられる民間の銃砲店を標的とすることに決定しました。民間人を襲うことに対して組織内部で疑問の声も上がりましたが、「銃砲店は警察権力と一体化した末端機関と見なすべきだ」として正当化されました。当初、この襲撃計画の実行メンバーには、獄外最高指導者の一人である坂口弘も含まれていましたが、内縁の妻でもあった永田洋子の反対により、実行直前になって他のメンバーと交代しています。
1971年2月17日午前2時30分頃、革命左派のメンバー6名が、栃木県真岡市にある銃砲店に到着しました。彼らは電報配達員を装って店の勝手口を叩き、家人が対応して戸を開けたところを狙って強引に室内に侵入しました。襲撃犯たちは店主一家4人（店主、妻、当時6歳と5歳の子供）を縛り上げ、行動を封じました。その後、店内にあった猟銃10丁（内訳は散弾銃9丁、ライフル銃1丁）、空気銃1丁、そして約2300発にも及ぶ大量の銃弾を強奪し、現場から逃走しました。この襲撃により、店主は全治2週間の怪我を負っています。
事件発生後、警察は直ちに広範囲にわたる大規模な捜査網を敷きました。犯行グループが逃走中に警察に追跡され、慌てて車を乗り捨てて近くのゴミ箱に隠れていたメンバー2名が間もなく発見され逮捕されました。この逮捕により、他の犯行メンバー4名、そして永田洋子と坂口弘ら革命左派の獄外指導部メンバーが全国に指名手配されることとなりました。指名手配を受けた彼らは都市部での潜伏活動が困難となり、同年3月から約2ヶ月間、北海道札幌市に潜伏した後、再び東京に戻る際に捜査当局の目を掻い潜るため、坂口弘の提案によって山岳地帯を新たなアジトとすることを決定します。これが後の「山岳ベース事件」の舞台となる赤城山などへの移動に繋がりました。また、永田洋子は逃亡生活の中で、この事件で奪取した銃器の役割について、当初の最高指導者奪還という目的から、銃を軸とした武力闘争そのものへと意味合いを変えていったとされています。
強奪された猟銃の一部は、革命左派と「相互協力」関係にあった赤軍派に金銭と引き換えに譲渡されました。これらの銃器は、赤軍派が「M作戦」と呼称して実行した金融機関強盗事件、特に1971年7月の松江相銀米子支店強奪事件などで使用されました。この事件で真岡銃砲店から奪われた猟銃を持った赤軍派メンバーが逮捕されたことにより、警察当局は革命左派と赤軍派の間の連携を確認するに至りました。さらに、これらの銃器は、その後両組織が合同して結成された「連合赤軍」によって引き起こされた、日本の新左翼史に残る凄惨な事件であるあさま山荘事件でも犯人によって使用されています。
事件に関与した実行犯6名のうち、2名は事件直後に逮捕されました。残りの4名と、永田、坂口の合計6名が指名手配されました。その後、1971年8月に指名手配犯のうち1名、同年11月にもう1名が逮捕されました。そして、1972年2月には、永田洋子、坂口弘、そして実行犯の一人であった吉野雅邦が逮捕されました。これにより指名手配されていた主要メンバーはほぼ逮捕されましたが、残る実行犯の一人である寺岡恒一は、既に山岳ベース事件の過程で同志によって殺害されていたことが後に判明しました。
この事件は、被害者となった銃砲店の店主一家に計り知れない深い傷を残しました。店主は襲撃により重傷を負い、店主の妻は事件後7ヶ月が経過してもなお「勝手場に行くのが怖い」と訴えるなど、長期にわたり精神的な苦痛を抱え続けました。当時まだ幼かった子供たちも、事件後一人で就寝できなくなるなど、心に深い傷を負ったとされています。1982年6月に行われた永田洋子と坂口弘に対する第一審判決では、本事件について「被害者一家に対し、文字通り物心両面にわたる深刻な打撃と苦痛を与えた」と認定しました。また、同判決はこの真岡銃砲店襲撃事件を「後に来る凶悪事件の契機をなした」と位置づけ、事件全体の最高首謀者と見なされた永田・坂口らに対して、「共犯者中責任が最も重いのは当然であり、実行行為に直接関与していないという一事は、いささかもその責任を軽減する理由とはなしがたい」と厳しく断罪しました。
新左翼
日本の新左翼
光の雨（事件を題材にした小説）
レッド（山本直樹による漫画）
* アルフ・フォン・ムト・ハイム（犯人逮捕に貢献した警察犬）
事件の背景と計画
事件の根本的な背景には、革命左派が獄中にいた最高指導者、川島豪の奪還を至上課題としていたことがあります。組織の獄外最高指導者であった永田洋子と坂口弘は、川島からの奪還指示を受け、その具体的な実行計画を練りました。当初、彼らは外国領事館関係者など要人の誘拐を検討し調査を進めましたが、その困難さから断念しました。次に浮上した計画は、川島が裁判のために横浜拘置所から横浜地方裁判所へ護送される際に襲撃するというものでした。この護送襲撃計画を遂行するためには強力な銃器が必要であり、その入手が急務となりました。
銃器を獲得する方法として、革命左派はまず交番を襲撃して警察官の拳銃を奪うことを試み、1970年12月18日には上赤塚交番襲撃事件を起こしましたが、これは失敗に終わりました。交番襲撃の断念後、狩猟中のハンターから銃を奪う計画も検討し調査を行いましたが、最終的に比較的容易に大量の銃器が手に入ると考えられる民間の銃砲店を標的とすることに決定しました。民間人を襲うことに対して組織内部で疑問の声も上がりましたが、「銃砲店は警察権力と一体化した末端機関と見なすべきだ」として正当化されました。当初、この襲撃計画の実行メンバーには、獄外最高指導者の一人である坂口弘も含まれていましたが、内縁の妻でもあった永田洋子の反対により、実行直前になって他のメンバーと交代しています。
事件発生と実行内容
1971年2月17日午前2時30分頃、革命左派のメンバー6名が、栃木県真岡市にある銃砲店に到着しました。彼らは電報配達員を装って店の勝手口を叩き、家人が対応して戸を開けたところを狙って強引に室内に侵入しました。襲撃犯たちは店主一家4人（店主、妻、当時6歳と5歳の子供）を縛り上げ、行動を封じました。その後、店内にあった猟銃10丁（内訳は散弾銃9丁、ライフル銃1丁）、空気銃1丁、そして約2300発にも及ぶ大量の銃弾を強奪し、現場から逃走しました。この襲撃により、店主は全治2週間の怪我を負っています。
事件後の経過と逮捕
事件発生後、警察は直ちに広範囲にわたる大規模な捜査網を敷きました。犯行グループが逃走中に警察に追跡され、慌てて車を乗り捨てて近くのゴミ箱に隠れていたメンバー2名が間もなく発見され逮捕されました。この逮捕により、他の犯行メンバー4名、そして永田洋子と坂口弘ら革命左派の獄外指導部メンバーが全国に指名手配されることとなりました。指名手配を受けた彼らは都市部での潜伏活動が困難となり、同年3月から約2ヶ月間、北海道札幌市に潜伏した後、再び東京に戻る際に捜査当局の目を掻い潜るため、坂口弘の提案によって山岳地帯を新たなアジトとすることを決定します。これが後の「山岳ベース事件」の舞台となる赤城山などへの移動に繋がりました。また、永田洋子は逃亡生活の中で、この事件で奪取した銃器の役割について、当初の最高指導者奪還という目的から、銃を軸とした武力闘争そのものへと意味合いを変えていったとされています。
強奪された猟銃の一部は、革命左派と「相互協力」関係にあった赤軍派に金銭と引き換えに譲渡されました。これらの銃器は、赤軍派が「M作戦」と呼称して実行した金融機関強盗事件、特に1971年7月の松江相銀米子支店強奪事件などで使用されました。この事件で真岡銃砲店から奪われた猟銃を持った赤軍派メンバーが逮捕されたことにより、警察当局は革命左派と赤軍派の間の連携を確認するに至りました。さらに、これらの銃器は、その後両組織が合同して結成された「連合赤軍」によって引き起こされた、日本の新左翼史に残る凄惨な事件であるあさま山荘事件でも犯人によって使用されています。
事件に関与した実行犯6名のうち、2名は事件直後に逮捕されました。残りの4名と、永田、坂口の合計6名が指名手配されました。その後、1971年8月に指名手配犯のうち1名、同年11月にもう1名が逮捕されました。そして、1972年2月には、永田洋子、坂口弘、そして実行犯の一人であった吉野雅邦が逮捕されました。これにより指名手配されていた主要メンバーはほぼ逮捕されましたが、残る実行犯の一人である寺岡恒一は、既に山岳ベース事件の過程で同志によって殺害されていたことが後に判明しました。
被害者への影響と裁判所の評価
この事件は、被害者となった銃砲店の店主一家に計り知れない深い傷を残しました。店主は襲撃により重傷を負い、店主の妻は事件後7ヶ月が経過してもなお「勝手場に行くのが怖い」と訴えるなど、長期にわたり精神的な苦痛を抱え続けました。当時まだ幼かった子供たちも、事件後一人で就寝できなくなるなど、心に深い傷を負ったとされています。1982年6月に行われた永田洋子と坂口弘に対する第一審判決では、本事件について「被害者一家に対し、文字通り物心両面にわたる深刻な打撃と苦痛を与えた」と認定しました。また、同判決はこの真岡銃砲店襲撃事件を「後に来る凶悪事件の契機をなした」と位置づけ、事件全体の最高首謀者と見なされた永田・坂口らに対して、「共犯者中責任が最も重いのは当然であり、実行行為に直接関与していないという一事は、いささかもその責任を軽減する理由とはなしがたい」と厳しく断罪しました。
関連事項
新左翼
日本の新左翼
光の雨（事件を題材にした小説）
レッド（山本直樹による漫画）
* アルフ・フォン・ムト・ハイム（犯人逮捕に貢献した警察犬）
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