矢口氏

矢口氏の歴史と出自

矢口氏は、日本の武家氏族であり、信濃国安曇郡にて長い歴史を有する一族です。この氏族は、仁科氏の被官として知られていますが、その出自については複数の説があります。例えば、筑摩郡や安曇郡南部に拠点を置いていた犬甘氏をはじめとした大伴氏流の一族とされていることもあります。これら大伴流の一族は、信濃地域において国衙や御牧、社宮などを中心に勢力を築いていました。

矢口氏の起源

矢口氏は、特に安曇郡に活動の中心があったとされています。矢口氏はもともと野口氏であったという伝承も存在し、安曇郡にある若一王子社において流鏑馬の的を献上したことが改姓の由来とされています。

室町時代の矢口氏

矢口氏が歴史に登場するのは、室町時代にさかのぼります。応永7年（1400年）の大塔合戦において、信濃守護小笠原長秀が放逐された事件が記された「信州大塔軍記」には、当時の仁科家の当主であった仁科盛房の寄騎として、矢口将監およびその同族である野口氏が名を連ねています。

その後、応仁の乱を受けて仁科氏は小笠原氏と抗争を繰り返し、穂高方面への進出を試みました。この結果、仁科一族は穂高神社の行事を支配するようになり、明応10年（1501年）の奉行記録には矢口知光の名が記されています。また、西山集落の地頭職を得て城郭に居住した矢口氏は、後に松本藩の記録にも登場します。

戦国時代の動向

戦国時代には、天文21年（1552年）に武田氏が小笠原長時を信濃から追放した際、仁科家一族は武田晴信に従います。この時期、矢口氏の動向は不明ですが、武田氏に従っていたと考えられます。武田家臣団の記録では、矢口氏に関連する名前が見受けられますが、その活動は限定的です。

江戸時代の状況

武田氏の滅亡後、矢口氏がどのような行動を取ったかは明確ではありませんが、帰農したとする見方があります。一方で、鵜山に住んでいた矢口兵右衛門は、小笠原氏に従い安曇郡の筋奉行となっていたとの記録も存在します。江戸時代初期には仁科神明宮の棟札に矢口姓がいくつか見受けられ、安曇郡の地元有力者としての役割を果たしていたことがうかがえます。

また、日岐城に在番衆として名前が挙がった矢口伊右衛門のように、矢口氏はいくつかの地域においてその存在を示しています。松本藩の成立とともに、戸田康長が信濃の地侍を召集する際には、矢口姓もその中に含まれており、一族は再び藩士としての身分を取り戻した可能性があります。

結論

矢口氏は、長い歴史を有し、時代の波に翻弄されながらも、地域に根付いた存在でした。仁科氏との関係、武田氏への従属、江戸時代における立ち位置など、数世代にわたるその動向は、地域の歴史の中で重要な一部を成しています。

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