大塔合戦

大塔合戦とは

大塔合戦（おおとうがっせん）は、応永7年（1400年）に信濃守護の小笠原長秀と、村上氏、井上氏、高梨氏、仁科氏といった有力国人領主および、それらと結んだ中小国人領主たちの連合軍（大文字一揆）が、善光寺平南部で激突した戦いです。

この戦いで守護側は惨敗を喫し、信濃国はその後も中小の有力国人領主たちが各地で割拠する時代が長く続くことになりました。

合戦前史

鎌倉時代、信濃国は北条氏が守護職をほぼ独占していました。北条氏が滅亡した後も、信濃は北条氏の影響が色濃く残る地域でした。そのような状況の中、甲斐源氏の一族である小笠原氏は、足利尊氏による倒幕運動に早くから加担し、建武2年（1335年）に小笠原貞宗が信濃守護に任命されます。しかし、中先代の乱で守護所が襲撃されるなど混乱が続きました。

南北朝時代に入ると、信濃の国人領主たちは北朝方と南朝方、尊氏党と直義党に分かれて争い、守護職が斯波氏に交代する事態も発生します。また、関東管領上杉朝房の攻撃に対して栗田氏が迎撃するなど、各地で紛争が起こりました。

その後、永らく北朝方として戦ってきた小笠原氏が、足利将軍家から信濃守護として認められ、応永6年（1399年）に念願の信濃守護に再任されました。

合戦の発端

小笠原長秀は、将軍足利義満から信濃国守護に任命され、太田荘から島津氏や高梨氏を排除するよう命じられました。就任直後の10月には、長沼の島津国忠が守護方と抗争を起こしています。

応永7年（1400年）7月3日、長秀は京都を出発し、同族の大井光矩（佐久）を経由して北信濃に入ります。村上満信には協力を求め、東北信の国人領主たちに守護としての政務開始を通告しました。そして、善光寺に200騎余りを従えた行列で入ると、国人領主たちを召集して対面します。この時、長秀は非常に高圧的な態度で臨んだと伝えられています。

守護就任に反発を強めた犀川沿岸の栗田氏や小田切氏、落合氏、小市氏、窪寺氏、香坂氏、春日氏、三村氏、西牧氏、宮高氏といった国人たちは、「大文字一揆」を結成し、窪寺氏のもとに集まりましたが、しばらくは情勢を見守ることにしました。

長秀は、収穫期を迎えていた川中島で、「幕府から知行された守護の所領である」として年貢の徴収を開始します。しかし、当時そこは村上氏が押領していた地であり、他の国人領主たちにとっても、守護の一存で所領が左右されることは容認できませんでした。この年貢徴収が、多くの国人領主たちを反小笠原に決起させる決定的な要因となります。

戦局

守護小笠原氏に反旗を翻したのは、村上氏のほか、中信の仁科氏、東信の海野氏や根津氏を始めとする滋野氏一族、北信の高梨氏や井上氏、信濃島津氏など、信濃の国人衆の大部分でした。小笠原氏に加勢したのは、一族以外では市河氏と、南信地方の一部武士のみだったとされています。

また、小笠原一族内でも、長秀の高圧的な態度に反発して参陣しなかった者が多かったとされています。一説によると、ほぼ半数が加勢しなかったとされています。

「大塔物語」によると、長秀の下に集まった小笠原勢は800騎余りで、善光寺から横田城へ進軍しました。これに対し、国人衆（大文字一揆）は、篠ノ井の岡（富部）に500余騎（村上氏）、篠ノ井塩崎上島に700余騎（佐久地方の国人衆）、篠ノ井山王堂に300余騎（海野氏）、篠ノ井二ッ柳に500余騎（高梨氏、井上氏一族など須坂・中野地方の国人衆）、方田ヶ先石川に800余騎（安曇地方の有力国人仁科氏や、根津氏など大文字一揆衆）が布陣しました。

この「騎」とは、多くの家来を率いた武士のことで、実際の兵力は小笠原勢が4千弱だったのに対し、国人衆は1万以上だったと推定されています。

横田城では防ぎきれないと判断した長秀は、一族の赤沢氏の居城である塩崎城への脱出を試みましたが、途中で発見され、塩崎城に辿り着けたのは長秀以下わずか150騎のみでした。残りの300騎余りは、大塔の古城（古砦）に逃げ込みました。

しかし、食料も何も準備していなかった古城では、篭城する術もなく、小笠原勢は餓死者も出すほど窮地に陥ります。最終的には全員が討ち死にか自害して果てました。

長秀が逃げ込んだ塩崎城も攻撃を受けましたが、同族で守護代の大井光矩が仲介に入ったことで窮地を脱し、長秀は京都へ逃げ帰りました。

翌応永8年（1401年）、長秀は信濃守護職を罷免され、信濃は幕府直轄領（料国）となりました。その後、幕府の代官として細川慈忠が派遣されます。信濃が再び小笠原氏の領国となるのは、長秀の弟政康が守護に任命された応永32年（1425年）のことです。

大塔の古城（古砦）について

「大塔の古城」の場所については、現在の篠ノ井にある大当地区にあった館跡が定説とされていました。大当地区の東方約500mにある宝昌寺には、この合戦での戦死者が多数葬られているという伝承があります。また、当時の大当地区を含む現在の長野市篠ノ井から千曲市北部にかけては、千曲川に犀川からの御幣川（現在の岡田川）や聖川が合流する低湿地帯で、古くから洪水の記録が残る場所でした。

しかし、定説となっている館跡は、寿永元年（1182年）の横田河原の戦いで使用された砦跡であるという説もあり、その場合、200年以上経過していることになります。さらに、「大塔の古城」に立て篭もった守護勢が壊滅したのは、合戦から約1ヶ月後のことであるため、低湿地の中にある荒れ果てた館跡で1ヶ月も持ちこたえるのは不自然だという異論も存在します。

現在では、大当地区の西方約2キロにある二ッ柳城（現在の二ッ柳神社）を「大塔の古城」とする説や、さらに西に400mほどの距離にある夏目城（現在の湯入神社）も合わせて考える説もあります。これらの城は、大当地区を見下ろす山際の傾斜地にあり、発掘調査の結果、当時は廃城になっていたことが確認されています。

しかし、二ツ柳方面には、合戦前に500余騎の須坂・中野地方の国人衆が、方田ヶ崎石川（夏目城）方面にも仁科勢等800余騎が布陣していたとされており、逃げ込む場所としては不適当とする意見もあります。

史料として、守護方として参陣した市河六郎頼重の文書（「市河家文書」）には、「二柳城においての戦功」に対して小笠原氏に恩賞を求めた記述があり、二柳城周辺で守護方と一揆勢の戦いがあったことは確実です。しかし、それが「大塔の古城」を指すかは不明であり、場所の特定には至っていません。

その後の大文字一揆衆

永享2年（1430年）、鎌倉公方足利持氏が白河結城氏を討伐しようとした際、将軍足利義教は信濃、越後、駿河の援軍を派遣しました。この時、幕府は守護小笠原政康が率いる信濃の軍勢を畠山氏に従わせましたが、大文字一揆については山名時熙に付随させています。

注釈

本記事は、以下の参考文献を参考に作成しました。

参考文献

* 『長野県史 通史編 第3巻 中世2』

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