矢崎山古墳

矢崎山古墳の概要

矢崎山古墳（やざきやまこふん）は、神奈川県横浜市都筑区に位置する古墳であり、古墳時代後期にあたる6世紀初頭に造られました。この古墳はその形状から方墳とされ、地域の歴史を知る上で重要な位置づけを持ちます。古墳が存在した場所は、かつての荏田東四丁目周辺で、調査時には緑区に含まれていました。この地域は港北ニュータウン遺跡群の一部であり、矢崎山遺跡の集落の盟主的な人物の埋葬地として重要視されています。

立地

矢崎山古墳は、鶴見川の支流である早渕川の南岸に位置し、「柚ノ木台」と呼ばれる台地の東側、渋沢谷と称される谷戸に延びる約50メートルの高台に所在しました。今日、この高台は住宅地として開発され、古墳の痕跡が見られませんが、その歴史を物語る遺跡だったことは間違いありません。

発掘調査の背景

現代の都筑区周辺は、かつては多摩丘陵の一部で、豊かな自然に恵まれた典型的な里山でした。しかし、1965年からの港北ニュータウン事業によって、この地域は大規模な住宅開発を進められることとなりました。この膨大な土地開発の過程で、268か所の埋蔵文化財包蔵地が発見され、そのうち200か所以上が1970年から1989年にかけて発掘調査されました。その中でも矢崎山古墳は、荏田地区における重要な考古学的発見の一つとして知られています。

調査の成果

最初に円墳だと考えられていた矢崎山古墳の墳形は、調査の結果、実際には一辺が22メートル、残存高さ2.5メートルの方墳であることが判明しました。周囲には2メートルの幅を持つ周溝が巡っています。墳頂には独特な構造の埋葬主体部が存在し、泥岩製の切石で作られた約2メートル×1.6メートルの空間がありました。この空間は、床には川原石が敷かれ、上部には粘土が被せられていました。この主体部は、具体的に石棺であるのか、木棺を使用しているのかは不明ですが、「箱形石棺状石槨」と呼ばれています。内部は盗掘され、副葬品はほとんど失われていましたが、わずかに直刀や鉄製の矢じり、銅製の耳環が残っていました。耳環の特徴から、古墳の築造時期は6世紀初頭と推定されています。

矢崎山横穴墓群

また、矢崎山古墳の北側には、13基からなる横穴墓が発見されており、これらは矢崎山遺跡の集落の近くに位置しています。これらの横穴墓は急傾斜の地形を活かして作られ、少なくとも4つの家族に属する支群から構成されていることがわかっています。内部からは直刀や首飾り、耳環などが出土され、これらの遺構は矢崎山古墳よりも下位の権力を持つ氏族が造営したものと考えられています。

古墳の意義

矢崎山古墳は、その独特な構造を持つ埋葬主体部によって、6世紀初頭における重要な方墳として位置づけられています。この古墳の築造時期は、北側の台地にある矢崎山遺跡集落の最盛期に重なり、地域の歴史を知る上で欠かせない存在です。地域内において、当古墳は盟主的な存在の墓とされ、その背後にある社会的・文化的な影響を考える上でも重要な遺跡と言えるでしょう。このような古墳を通じて、かつての人々の生活や信仰、社会構造を知る手がかりとなるのです。

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