矢崎虎夫

矢崎虎夫：木彫に魂を込めた彫刻家

矢崎虎夫（やざき とらお）は、1904年（明治37年）に長野県で生まれ、1988年（昭和63年）に84歳で生涯を閉じた彫刻家です。彼の作品は、仏教美術への深い造詣と、木彫に対する情熱が込められています。

生涯と芸術への道

長野県諏訪郡永明村（現在の茅野市）に生まれた矢崎は、幼少期から芸術に触れ、平櫛田中に師事しました。1929年（昭和4年）には院展に初入選を果たし、その後も3回にわたり院展白寿賞を受賞するなど、その才能を開花させます。1964年（昭和39年）にはヨーロッパへ渡り、ウィーン大学で仏教芸術の講義を行うとともに、パリではオシップ・ザッキンに師事し、彫刻家としての更なる研鑽を積みました。

帰国後の1966年（昭和41年）には、日本画府展で文部大臣賞を受賞、1973年（昭和48年）には長野市野外彫刻賞を受賞するなど、国内外で高い評価を得ました。晩年は仏教をテーマにした木彫像を数多く制作し、その作品は今も多くの人々を魅了しています。

年譜から見る矢崎虎夫の足跡

1923年（大正12年）：長野県立諏訪中学校卒業後、平櫛田中に入門。
1929年（昭和4年）：第16回日本美術院展に「カナリヤ」が初入選。
1931年（昭和6年）：東京美術学校彫塑科を卒業。
1934年（昭和9年）：日本美術院展「老母座像」入選、院友に推挙。
1946年（昭和21年）：日展出品作「バリ島の女の首」が政府買上。
1948年（昭和23年）：茅野高等学校の校章をデザイン。
1952年（昭和27年）：法隆寺金堂再建の修復彫刻を担当。
1953年（昭和28年）：日本美術院展白寿賞「若き女」受賞。
1954年（昭和29年）：日本美術院展白寿賞「浴光立女」受賞。
1959年（昭和34年）：日本美術院展白寿賞「立女」受賞。
1964年（昭和39年）：渡欧し、オシップ・ザッキンに師事。
1965年（昭和40年）：パリで個展を開催。
1966年（昭和41年）：日府展で文部大臣賞「雷電像」受賞。
1970年（昭和45年）：大阪万博に「平和観音像」を出展。
1971年（昭和46年）：国際霊廟中観山同願院昭和寺に「平和観音像」を安置。
1973年（昭和48年）：パリのヴァンセンヌの森に「雲水群像」設置。
1974年（昭和49年）：長野市第一回野外彫刻賞「托鉢」受賞。
1977年（昭和52年）：東京国立近代美術館に「托鉢」が収蔵。
1978年（昭和53年）：諏訪湖上に「八重垣姫」設置。
1979年（昭和54年）：亜細亜現代美術展内閣総理大臣賞「連弾」受賞。
1980年（昭和55年）：茅野市永明寺山に「釈迦像」設置。
1981年（昭和56年）：長野市に「大観音像」設置。
1982年（昭和57年）：勲四等瑞宝章を受章、茅野市名誉市民となる。
1988年（昭和63年）：茅野駅前に「調和」設置。
1990年（平成2年）：蓼科高原の聖光寺に観音菩薩化身12体を設置。
1991年（平成3年）：蓼科高原美術館・矢崎虎夫記念館が開館。

代表作

矢崎虎夫の代表作には、以下のようなものがあります。

諏訪大社上社本宮「雷電像」
箱根 彫刻の森美術館「托鉢」
霧ヶ峰昭和寺「平和観音像」
長野市霊園「托鉢」
永明寺山「釈迦像」
茅野市図書館「ラクダを曳く人」
茅野市役所「浴光」
尖石考古館（現・茅野市尖石縄文考古館）「縄文の手」
諏訪中央病院「すこやか」

これらの作品は、矢崎の彫刻家としての卓越した技術と、仏教美術への深い理解を示すものです。

蓼科高原美術館・矢崎虎夫記念館

矢崎虎夫の作品を専門に展示する「蓼科高原美術館・矢崎虎夫記念館」は、長野県の蓼科高原に位置しています。北八ヶ岳ロープウェイの山麓駅近くにあり、矢崎の作品を間近に見ることができます。美術館はロープウェイ運営会社によって運営されており、自然豊かな環境の中で芸術に触れることができます。

開館時間：午前10時～午後3時（受付時間 10:00～14:30）
休館日：不定休（11月～4月は冬季休館）
入館料：大人500円、子供300円（団体割引あり）

参考文献

矢崎虎夫の研究には、以下の書籍が役立ちます。

滝澤忠義『信州とフランス』1996年 桐原書店
『矢崎虎夫作品集』1985年、矢崎虎夫作品刊行会
矢崎虎夫『矢崎虎夫滞欧作品集 1964-1965』

これらの書籍を通して、矢崎虎夫の生涯と作品への理解を深めることができるでしょう。

矢崎虎夫は、その生涯を通じて、木彫という手法を通して人間の内面や仏教的な思想を表現し続けました。彼の作品は、今もなお多くの人々に感動とインスピレーションを与えています。

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