矯正運動 (シリア)

1970年11月13日、シリアで発生したクーデター『矯正運動』は、シリアの歴史を大きく転換させる出来事でした。これは、単なる政権交代ではなく、シリアの政治・経済構造、ひいては社会構造そのものを変容させる、革命的な出来事だったと言えるでしょう。

このクーデターの中心人物は、ハーフィズ・アル＝アサドです。アサドは、1963年の3月8日革命において空軍将校としてバアス党政権樹立に貢献した人物でした。しかし、バアス党内部では、その後も派閥争いが絶えず、権力闘争が繰り広げられていました。1966年には古参幹部が追放されるクーデターが発生しており、党内は不安定な状態が続いていたのです。

アサドは、こうした党内紛争の中で台頭しました。当時、バアス党内には、サラーフ・ジャディード派とアサド派という主要な二つの派閥が存在していました。ジャディード派は、左派的なイデオロギーを掲げ、冒険的な対外政策を推進していました。アサドは、ジャディード派の対外政策、特にヨルダン内戦への介入に批判的な立場をとっていました。

『矯正運動』とは、アサドがジャディード派を打倒するために起こしたクーデターです。このクーデターによって、それまで党内の事実上のリーダーであったジャディードは失脚し、追放されました。アサドは、クーデターの成功によってシリアの実権を掌握し、アサド政権を樹立したのです。

『矯正運動』は、シリア社会に大きな影響を与えました。とりわけ、アサドの出身宗派であるアラウィー派の地位向上は顕著でした。アラウィー派は、シリアの人口の12％にも満たない少数派でしたが、『矯正運動』後には、政治、経済、軍など、あらゆる分野で中核的な地位を占めるようになりました。これは、シリアの社会的・政治的な構造を大きく逆転させる出来事であったと言えるでしょう。

『矯正運動』は、シリアにおけるバアス党の支配を強化し、アサド政権の長期的な安定をもたらしました。しかし、その一方で、アラウィー派の優遇による他の宗派との間の不平等、権威主義的な政治体制の確立など、多くの問題も引き起こしました。このクーデターとその後のアサド政権による統治は、今日までシリアの政治・社会に大きな影響を与え続けています。シリア内戦など、現代シリアの混乱の根源を理解するためにも、『矯正運動』を理解することは不可欠と言えるでしょう。

『矯正運動』は、単なるクーデターではなく、シリアの歴史における重要な転換点であり、その影響は現代まで及んでいると言えるでしょう。

もう一度検索