石原一子

石原 一子（いしはら いちこ）

日本の実業家であり、大手百貨店である髙島屋で常務取締役を務めた人物。日本の東証一部上場企業において、女性として初めて重役のポストに就いたパイオニアであり、また経済同友会で最初の女性会員となったことで知られる。ビジネス界における女性の活躍の道を切り拓いた先駆者の一人である。

生涯

1924年（大正13年）10月22日、旧満州の大連市に生まれる。父は南満州鉄道に勤務していた。学業では、まず1942年に哈爾浜高等女学校を卒業し、続いて1945年に東京女子大学を卒業。さらに勉学を続け、1952年に東京商科大学（現・一橋大学）を卒業した。大学では山田雄三教授のゼミナールに所属。山田教授の紹介により東京銀行（現在の三菱UFJ銀行）への就職が内定していたが、紹介先の取締役が急逝するという予期せぬ事態が起こり、その道は閉ざされる。当時としては珍しかった男女同一賃金制度を導入していた髙島屋に関心を抱き、入社を決意した。

1954年、大学時代のゼミの先輩である石原英雄氏（後に朝日新聞西部本社代表取締役社長）と結婚。二人の子供を育てながら、仕事と家庭を両立させるキャリアを歩む。髙島屋では婦人服部門の課長などを経て、1979年に取締役に選任される。当時の取締役会では、女性がこれまでの男性が占めていたポストに就くことへの抵抗感があったため、新たに設置された広報室長という役職を委嘱されることになった。これは、石原にとって新しい分野での挑戦であり、組織としても女性の登用における柔軟な対応を示した事例と言える。

1981年には常務取締役に昇格。この時期、流通大手のダイエーが髙島屋の株式を取得し、業務提携を模索する動きがあったが、石原はダイエーが髙島屋株を取得したという情報をいち早く入手し、その後の対応に貢献したという。また、社内における女性社員のキャリア継続支援にも心を砕いた。後に髙島屋で女性として初めて代表取締役となる肥塚見春氏（Dear Mayuko社長）が、夫の転勤を理由に退職を余儀なくされた際、石原は女性社員のための再雇用制度の創設を強く推し進めた。この制度は見事に実現し、肥塚氏は制度適用第一号として髙島屋に復帰を果たしている。

自己成長への意欲も高く、55歳から毎朝1時間半を英会話の学習に充てるなど、継続的な自己研鑽に励んだ。1986年には、アメリカのハーバード大学ハーバード・ビジネス・スクールのAMP（Advanced Management Program：上級経営プログラム）を修了し、国際的な視点と高度な経営知識を身につけた。同年、奥谷禮子氏らとともに、財界の重要団体である経済同友会に初の女性会員として迎えられ、男性中心であった日本の財界において女性の存在感を示すことになった。

1986年に夫と死別。翌1987年、当時の飯田新一社長との関係が悪化したことなどを理由に、髙島屋を退職する。退職に際しては、「女としては異例の常務にしていただいた」と述べ、髙島屋への感謝の意を表明している。

髙島屋退職後も、その豊富な経験と知見を活かし、多岐にわたる分野で活動を展開した。香港の婦人服専門店の日本法人であるトピージャパンで副社長を務めたほか、ギャップ・ジャパンの特別顧問など、ファッションや流通業界を中心に活躍した。また、財団法人東京女子大学後援財団理事長、財団法人日本女性学習財団評議員、独立行政法人農業環境技術研究所顧問、経済同友クラブ理事など、様々な公的機関や団体の要職を歴任し、社会貢献にも尽力した。

実業家としての顔に加え、市民活動家としても知られている。特に、居住していた国立市における活動は顕著であり、「東京海上跡地から大学通りの環境を考える会」の代表を務め、国立マンション訴訟において景観保全を訴える市民側の運動に関与するなど、地域の環境問題や景観保護にも積極的に取り組んだ。

作家・清水一行の著書『女重役』の主人公のモデルとなった人物としても知られている。この小説は、1981年初めに起こったダイエーによる髙島屋への提携提案騒動をモデルとしており、作中の主人公がこの事態にどのように対応したかが物語の大きな柱となっている。

長年にわたる功績と貢献に対して、多くの賞が贈られている。1980年にはエイボン女性年度賞女性大賞を、1985年には日本貿易振興会からの輸入促進事業協力貢献者・企業に対する感謝状を受賞。さらに、1987年には日本能率協会マーケティング功労賞、2005年には経済産業大臣賞を受賞するなど、その活躍は広く認められた。

2024年12月1日、虚血性心不全のため、100歳で死去した。長男は石原全。

略歴

1942年：哈爾浜高等女学校卒業
1945年：東京女子大学卒業
1952年：東京商科大学卒業、髙島屋入社
1979年：髙島屋取締役広報室長
1981年：髙島屋常務取締役
1986年：ハーバード大学ハーバード・ビジネス・スクールAMP修了
1987年：髙島屋退社
1995年：トピージャパン副社長
1996年：ギャップ・ジャパン特別顧問

著書

『売場のヒット商品学』ビジネス社、1978年
『女は人材』三笠書房、1984年／（知的生きかた文庫）1987年
『流れのままに』熊本日日新聞情報文化センター、1997年
* 『景観にかける 国立マンション訴訟を闘って』新評論、2007年

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