石川武美

石川 武美

石川 武美（いしかわ たけよし）は、日本の実業家であり、傑出した編集者でした。1887年（明治20年）10月13日、大分県宇佐郡に生を受け、1961年（昭和36年）1月5日に満73歳で死去するまで、日本の出版界において多大な功績を残しました。特に、主婦の友社を創業し、婦人向け生活雑誌の分野を確立したことで知られています。

来歴と初期の活動

故郷である大分で青春時代を送った石川は、17歳を迎える1904年（明治37年）、旧制大分県立宇佐中学校を中途で辞し、単身上京しました。その後、同文館（現在の同文舘出版）に入社し、出版の世界に足を踏み入れます。この時期、羽仁吉一や都河龍らと共に、後に著名となる『婦人之友』や『婦女界』といった婦人雑誌の創刊・編集に深く携わりました。また、1906年（明治39年）にはプロテスタントの洗礼を受けるなど、信仰にも篤い一面を持っていました。

『主婦之友』の創刊と成功

同文館での経験を経て、石川は自身の理想とする出版事業を目指して独立します。1916年（大正5年）9月18日、東京家政研究会を設立し、独自の出版活動を開始しました。そして翌年、1917年（大正6年）2月14日には、主婦層を対象とした生活実用雑誌『主婦之友』（現在の『主婦の友』）を創刊します。当時すでに市場には『婦人画報』、『婦人之友』、『婦女界』、『婦人公論』といった有力な婦人雑誌が存在していましたが、『主婦之友』はわずか3年でこれらの先行誌を凌駕し、国内の発行部数首位の座を確立しました。この成功を受け、1921年（大正10年）5月には東京家政研究会を「主婦之友社」と改称、さらに1924年（大正13年）11月には「株式会社主婦之友社」として組織を株式会社へ改組し、自身が代表取締役社長に就任しました。

戦中・戦後の歩み

事業の拡大と共に、石川は出版業界全体の発展にも尽力します。1941年（昭和16年）には、文化事業の振興を目指し、財団法人石川文化事業財団を設立しました。第二次世界大戦中の1944年（昭和19年）9月には、戦時統制下の出版流通を担う日本出版配給統制株式会社（後の日本出版配給）の社長職を兼務するなど、時代の要請に応じた役割も果たしました。

終戦後の1946年（昭和21年）5月、戦後の占領政策に伴う公職追放処分を受け、主婦之友社および日本出版配給の役職を辞することとなります。主婦之友社の社長職は、長女・恵美子の夫である石川数雄が引き継ぎました。追放期間中も、石川文化事業財団は活動を継続し、1947年（昭和22年）12月1日には、女性のための私設図書館であるお茶の水図書館（現在の石川武美記念図書館）を主婦之友社内に開設しました。公職追放が解除された1950年（昭和25年）には、出版取次大手である東京出版販売（現在のトーハン）の社長に就任し、再び出版流通の現場で手腕を発揮しました。

晩年と功績

1953年（昭和28年）12月、株式会社主婦之友社は「株式会社主婦の友社」に社名を変更し、それに合わせて翌年新年号から雑誌名も『主婦の友』と改められました。出版人としての長年の功績は高く評価され、1958年には「婦人家庭雑誌の創造と確立」および「戦後の雑誌大型化における先鞭」が称えられ、第6回菊池寛賞を受賞しました。多くの著書も残しており、『わが愛する生活』、『信仰の道』など、その著作は没後も刊行されています。

1961年1月5日、石川武美は73歳でその生涯を閉じました。彼の築いた主婦の友社は、女婿である石川数雄、そして孫の石川晴彦、石川康彦へと経営が引き継がれました。日本の出版界において、特に生活実用雑誌の分野を切り開き、出版流通の近代化にも貢献したその足跡は、現在も色褪せることがありません。

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