石川総佐

石川総佐：開明的藩主と文化人

石川総佐は、江戸時代後期に伊勢亀山藩の第6代藩主を務めた人物です。寛政7年（1795年）に生まれ、幼くして藩主の座を継ぎましたが、その短い生涯の中で、藩政改革や文化の発展に大きく貢献しました。

若き藩主の誕生と異文化との出会い

寛政7年（1795年）3月10日、総佐は第5代藩主・石川総師の長男として江戸で生まれました。享和3年（1803年）、父の死によりわずか9歳で家督を相続し、藩主となりました。総佐の治世下では、天明2年（1782年）に亀山藩領の船頭大黒屋光太夫らが漂流し、ロシアに保護された後、寛政3年（1791年）に帰国するという出来事がありました。光太夫らが持ち帰ったヨーロッパやロシアの情報は、総佐に大きな衝撃を与え、自らフランス語を学び、蘭学を奨励するきっかけとなりました。

蘭学の奨励と軍制改革

総佐は、海外の知識や技術を取り入れることの重要性を認識し、文化14年（1817年）には算術家代官を京都に留学させ、ヨーロッパや中国の天文学・算術を研究させました。また、軍制改革にも取り組み、小銃隊の編成を改めるなど、欧化主義的な政策を推進しました。この改革は、当時としては先進的なものであり、『鈴鹿郡野史』には「欧化主義のハイカラ城主総佐の意見による」と記されています。

浮世絵師としての才能

総佐は、藩主としての職務をこなす傍ら、絵画にも才能を発揮しました。9歳の時に描いた「鶏図」や、浮世絵風の美人図が地元亀山市の本久寺に残されています。また、歌川豊国の門人として「国広」を名乗り、浮世絵を描いていたという説もあります。三田村鳶魚の著作には、総佐が「俳優の似顔など」を描いていたことや、歌川派で使用される「年丸」の紋が、もとは亀山藩の徽章であったことが記されています。これらのことから、総佐は藩主でありながら、文化人としての側面も持ち合わせていたことがわかります。

後継者問題と隠居、そして早逝

文政元年（1818年）、総佐は弟総章を養子にしようとしましたが、総章は許可を得る前に病没してしまいました。その後、水戸藩から徳川斉昭を養子に迎えたいという申し出がありましたが、家老の名川大内蔵は藩内の議論を経てこれを断り、支藩である常陸下館藩主の次男総安を養子として迎えました。文政3年（1820年）3月22日、総佐は総安に家督を譲って隠居し、同年6月14日に江戸で26歳という若さで亡くなりました。

総佐は、若くして藩主となりながらも、蘭学の奨励や軍制改革、文化活動など、多岐にわたる分野で活躍しました。その短い生涯は、時代の変化に敏感に対応し、新しい知識や技術を取り入れようとした、開明的藩主の姿を今に伝えています。

系譜

父：石川総師
母：水野忠鼎の娘
正室：西尾忠善の娘
子女
菊：加納久徴正室、牧野康命室、戸田忠温継室
養子
石川総安：石川総般の次男
養女
石川総安正室：実妹

脚注

[1] 国立国会図書館デジタルコレクション『新板改正　文政武鑑』（御大名衆巻之二）
[2] 国立国会図書館デジタルコレクション『浮世絵師伝』井上和雄編
[3] 国立国会図書館デジタルコレクション『鈴鹿郡野史』柴田厚二郎

参考文献

『新板改正　文政武鑑』（御大名衆巻之二）
井上和雄編　『浮世絵師伝』　渡辺版画店、1931年
柴田厚二郎　『鈴鹿郡野史』　1947年
『三田村鳶魚全集』（第十七巻）　中央公論社、1976年

外部リンク

亀山市. “亀山市史”. 2014年1月17日閲覧。

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