石巻市立大川小学校

石巻市立大川小学校について

宮城県石巻市に位置していた大川小学校は、2011年3月11日の東日本大震災で甚大な被害を受けました。この学校は、福地、針岡、釜谷、長面、尾崎の各地区を通学区域としていましたが、震災後、二俣小学校に統合されました。震災では、北上川を遡上した津波により、児童と教職員合わせて84名もの尊い命が失われ、学校の対応における過失が裁判で争われることとなりました。現在、大川小学校は震災遺構として整備され、その悲劇を後世に伝える役割を担っています。

沿革

大川小学校は、その歴史の中で何度か名称や組織の変更を経験しています。

1873年（明治6年）：桃生郡釜谷小学校として開校。
1887年（明治20年）：長面尋常[[小学校]]と改称。
1901年（明治34年）：大川尋常高等小学校が創設。
1941年（昭和16年）：大川国民学校に改称。
1947年（昭和22年）：大川小学校に改称。
1955年（昭和30年）：河北町立大川小学校に改称。
1958年（昭和33年）：福地分校が独立し、大川第一小学校に改称。
1985年（昭和60年）：大川第一・第二小学校が統合され、大川小学校（第二次）に改称、新校舎完成。
2005年（平成17年）：石巻市立大川小学校に改称。
2007年（平成19年）：スクールバス導入
2011年（平成23年）：東日本大震災により甚大な被害。
2016年（平成28年）：被災校舎の保存が決定。
2018年（平成30年）：閉校、二俣小学校へ統合。
2021年（令和3年）：周辺の行方不明者捜索が終了。

東日本大震災における被害

2011年3月11日、大川小学校は、地震発生から約50分後に遡上してきた津波に襲われました。当時、校庭にいた児童78名のうち70名が死亡、4名が行方不明となり、校内にいた教職員11名中10名が死亡しました。さらに、学校に避難していた地域住民や保護者、スクールバス運転手も犠牲となりました。これは、第二次世界大戦後、学校管理下で発生した最悪の惨事の一つです。

地震後の学校の対応

地震発生直後、校舎の損壊により教師らは児童を校庭に集めました。避難場所として、学校の裏山が検討されましたが、当日の降雪や余震による危険性から、校庭にとどまるという意見と対立しました。裏山への避難を促した児童もいましたが、教師に連れ戻されました。また、学校が地域の避難所に指定されていたこともあり、避難してきた高齢者の存在も避難場所の決定を複雑化させました。

最終的に、学校は裏山ではなく、約200m離れた国道398号のたもとにある三角地帯への避難を選択しました。しかし、この判断が避難の遅れを招き、結果として、津波に巻き込まれるという悲劇を引き起こしました。避難開始が遅れた理由としては、教職員間の意見対立、保護者への対応、そして津波の規模に対する認識不足が挙げられます。

津波の到達

児童らが県道に出た直後、堤防を乗り越えた津波が児童の列をのみ込みました。一部の教員と児童は裏山に逃れて助かりましたが、多くの児童は津波に巻き込まれました。避難先として選ばれた三角地帯も津波に飲み込まれ、この場所が安全な避難場所とは言えなかったことが明らかになりました。

被災後

学校機能の移転と慰霊碑

生き残った児童は、飯野川第一小学校へ通学した後、二俣小学校の仮設校舎に移りました。その後、児童数の減少から、二俣小学校へ統合されました。大川小学校跡地には、犠牲者を慰霊する母子像が設置されています。

震災遺構としての保存

2016年3月、大川小学校の旧校舎は震災遺構として保存されることが決定しました。校舎周辺は公園として整備され、2021年7月18日から一般公開されています。校舎やプール、運動場などが当時の姿のまま残されており、津波の恐ろしさを伝えています。

遺構の状況

遺構として残された校舎は、津波によって大きく損傷しています。教室棟では、津波の水圧で床が隆起したり、天井に波状の痕跡が残ったりしています。また、プール棟に繋がるブリッジは、津波の力で倒壊しています。体育館は木造部分が全て消失し、野外ステージの反響板は倒壊した状態です。これらの状況から、当時の津波の威力を知ることができます。

地震対応をめぐる問題

学校側の対応への疑問視

地震発生から津波到達までの50分間、学校が適切な対応を取らなかったことが、多くの疑問を呼んでいます。校長が不在だったため指揮系統が不明確であったこと、避難開始が遅れたこと、裏山への避難を中止したことなど、学校の対応には多くの問題点が指摘されています。近隣の小学校では地震直後に高台へ避難し、児童が全員無事だったことと比較すると、大川小学校の対応は著しく不十分でした。

事故検証委員会

2012年、大川小の事故検証委員会が設置されましたが、その調査方法や報告内容には多くの批判が寄せられました。委員会は、具体的な避難場所が明記されていなかったマニュアルの問題点を指摘しましたが、遺族からは「なぜ50分間逃げなかったのか」という核心的な問いへの言及がないと不満の声があがりました。

民事訴訟

2014年、犠牲になった児童の遺族が、宮城県と石巻市を相手取り損害賠償を求める民事訴訟を起こしました。裁判では、学校側の過失が認められ、遺族への賠償が命じられました。仙台地裁、仙台高裁を経て、最高裁で判決が確定しました。

仙台地裁

仙台地裁は、学校側が津波の襲来を予見できたにもかかわらず、裏山に避難させなかった過失を認めました。

仙台高裁

仙台高裁は、学校側の防災体制の不備を認定し、市教委まで含めた「組織的過失」を認めました。また、教師がハザードマップの信頼性を検討すべきだったと指摘しました。

上告棄却

最高裁は、石巻市と宮城県の上告を棄却し、二審判決が確定しました。

教訓の伝承や追悼・追憶

語り部活動と防災教育

「大川伝承の会」による語り部活動や、大川小学校を訪れる教育関係者向けの研修などを通して、悲劇を繰り返さないための教訓が伝えられています。

映画

大川小学校の悲劇や裁判を題材にしたドキュメンタリー映画も制作されており、この事件を風化させないための取り組みが続けられています。

参考文献

池上正樹・加藤順子『あのとき、大川小学校で何が起きたのか』青志社（2012年10月24日）
池上正樹・加藤順子『石巻市立大川小学校「事故検証委員会」を検証する』ポプラ社（2014年3月7日）

石巻市立大川小学校