硬口蓋歯茎吸着音

硬口蓋歯茎吸着音について

硬口蓋歯茎吸着音（こうこうがいはぐききゅうちゃくおん）は、子音の一種であり、国際音声記号では[ǂ]と表記されます。この音は、吸着音の中でも調音部位が特殊であり、その音響的な特徴も他の吸着音とは異なります。

概要

吸着音は、舌を使って口腔内に陰圧を作り、その解放によって音を出す子音です。硬口蓋歯茎吸着音の調音部位については、研究者によって見解が異なることがあります。

一部の研究者は、この音を「歯＝歯茎吸着音」または単に「歯茎吸着音」と呼ぶことがあります。これは、舌が歯や歯茎にも接触するためです。しかし、ラディフォギッドとトレイルは、硬口蓋を主要な調音部位としています。彼らの主張によれば、舌が歯や歯茎にも接触するものの、二重調音によって形成される空洞の位置が、一般的な歯茎吸着音（[ǃ]）よりもずっと後方にあるため、開放時の音は硬口蓋音として記述されるべきだとしています。

音響的特徴

音響的な特徴として、吸着音は[ʘ ǀ ǁ]などのグループと、[ǃ ǂ]のグループで異なっています。[ʘ ǀ ǁ]は、破擦音のように長い噪音（約15ミリ秒）を持つのに対し、[ǃ ǂ]では噪音が短く（約6ミリ秒）、減衰音となります。

さらに、[ǃ]の周波数は約1200ヘルツであるのに対し、[ǂ]の周波数は約3000ヘルツと高くなります。これは、調音部位がより後方にあるため、口腔内で作られる空洞が小さくなることを反映しています。

調音

吸着音は、本質的に軟口蓋音または口蓋垂音との二重調音であり、国際音声記号では[k͡ǂ]のように表記するか、タイを省略して[kǂ]と表記できます。帯気音は[kǂʰ]、有声音は[ɡǂ]、鼻音は[ŋǂ]のように表記されます。

言語例

この音は、主にコイサン諸語に多く見られます。具体的には、ナマ語、クン語、コン語などが挙げられます。

ナマ語の例:

[kǂais] 「呼び声」
[kǂʰaris] 「小さい人」
[ŋ̥ǂʰais] 「ヒヒの尻」
[ŋǂais] 「キジバト」
[kǂˀais] 「黄金」

コン語の例:

[kǂàã] 「骨」

まとめ

硬口蓋歯茎吸着音[ǂ]は、その独特な調音部位と音響特性から、他の吸着音とは区別される子音です。コイサン諸語のような特定の言語で観察され、その発音は他の子音との組み合わせで多様な表現を生み出します。音声学的な研究において、この音の調音メカニズムと音響的な特徴の理解は、言語の多様性を理解する上で重要な要素となります。

参考文献

Ladefoged, Peter; Maddieson, Ian (1996). The Sounds of the World's Languages. Oxford: Wiley-Blackwell. ISBN 978-0631198154.
プラム, ジェフリー・K、ラデュサー, ウィリアム・A 著、土田滋; 福井玲; 中川裕 訳『世界音声記号辞典』三省堂、2003年。ISBN 4385107564。

外部リンク

Peter Ladefoged; Sandra Ferrari Disner (2012) [2001], “14. Consonants around the world”, Vowels and Consonants (3rd ed.), Wiley-Blackwell, ISBN 9781444334296, http://www.vowelsandconsonants3e.com/chapter_14.html (ナマ語の吸着音の一覧と音声データを含む)

関連事項

子音
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