磯野文斎

磯野文斎（いその ぶんさい、生没年不詳）は、江戸時代後期に長崎で活動した浮世絵師であり、版元としても知られています。彼の生涯については不明な点が多いものの、その作品を通して当時の長崎の文化や風俗を垣間見ることができます。

生涯

磯野文斎は、渓斎英泉の門下で絵を学びました。本名を磯野信春といい、通称を由平と称しました。また、文彩、文斎、文彩堂という号を用いていました。彼は長崎の今鍛冶屋町角で版元「文彩堂大和屋」を営んでいました。大和屋由平を省略して「大由」とも呼ばれていました。文政4年（1821年）頃には江戸に住んでいたとされ、そこで渓斎英泉に師事し、絵画の技法を習得したと考えられます。その後、文政6年（1823年）頃に長崎に戻り、版元としての活動を開始すると同時に、長崎絵の制作にも力を注ぎました。

文斎の作画期は文化年間末から安政年間にかけてで、版元としての活動は弘化年間から安政年間にかけてが中心でした。特に弘化年間以降は、江戸絵風の特色を取り入れた作品を多く制作しましたが、それらの多くは落款がない状態で残されています。文政元年（1818年）に刊行された『狂歌鄙鶯集』では、北渓が作画を担当し、文斎は「文斎万陀良」と称して編集を行いました。

作品

磯野文斎は、浮世絵師として、また版元として多様な作品を残しました。以下に代表的な作品をいくつか紹介します。

『狂歌御国ふり』：文化13年（1816年）に刊行された狂歌本です。
『狂歌長嬴集』：文政4年（1821年）に刊行された絵入狂歌本で、宿屋飯盛、芍薬亭長根が編纂を担当しました。文斎は魚屋北渓と共に作画を担当しています。
『狂歌鄙鶯集』：文政元年に刊行された狂歌本で、文斎は編集者として「文斎万陀良」の名で関わりました。
『長崎土産』：弘化4年（1847年）正月に刊行された地誌です。奥付には「江戸渓斎池田英泉義信門人　文斎磯野信春著併画」と記されており、文斎が著者であり、自ら絵も描いていたことが分かります。
「長崎八景」：弘化年間に制作された横小判錦絵8枚揃いです。「立山秋月」などが含まれています。
「魯西整儀　写真鑑」：嘉永6年（1853年）に制作された錦絵です。
「聖寿山崇福禅寺之図」：横大判錦絵です。

これらの作品を通して、磯野文斎の画風や、当時の長崎の様子を知ることができます。

参考文献

磯野文斎の研究には、以下の文献が役立ちます。

井上和雄編『浮世絵師伝』渡辺版画店、1931年。
* 日本浮世絵協会編『原色浮世絵大百科事典』（第2巻）大修館書店、1982年。87頁

これらの文献は、磯野文斎の生涯や作品についてより深く理解するための手助けとなります。

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