示相化石

示相化石（しそうかせき、Facies Fossil）

示相化石（しそうかせき、facies fossil）は、地層がどのような環境で形成されたのかを示す手がかりとなる化石です。

地層に含まれる化石の種類を調べることで、その時代の気温や水深、塩分濃度といった堆積環境、すなわち「古環境（こかんきょう）」を詳細に読み解くことができます。これは、過去の地球の姿を探る上で非常に重要な情報をもたらします。

なぜ環境がわかるのか

なぜ化石が環境を示すのでしょうか。それは、化石となった生物の多くが、生存するために特定の環境条件（例えば、特定の水温や水深、底質など）を必要としていたからです。現代の生物と同じように、過去の生物もそれぞれ適した環境で暮らしていました。したがって、ある種類の化石が見つかった場所は、その生物が生息していた当時の環境であったと推測できるのです。

示相化石の例

具体的な例を挙げましょう。たとえば、暖かく浅い海に生息するサンゴの化石が見つかれば、その地層は過去に温暖な浅瀬の海で堆積したと判断できます。

また、顕微鏡でなければ見えない「微化石（びかせき）」も示相化石として非常に有効です。特に有孔虫（ゆうこうちゅう）のような生物は、環境によって生息する種が大きく異なるため、微細な違いから環境を詳細に推定できます。石炭紀やペルム紀といった地質時代に栄えたフズリナ（紡錘虫）も重要な示相化石の一つです。これらはサンゴなど浅海性の生物の化石と共に発見されることが多く、当時の海が比較的浅かったことを示唆します。

新しい利用法

さらに、微化石、特に有孔虫の殻に含まれる酸素の安定同位体比を分析することで、当時の海水の温度（古水温）を推定する手法も発達しています。これは、単に生物の生息域から環境を類推するだけでなく、より定量的なデータに基づいて古環境を復元する、新しい形の示相化石の利用法と言えます。

示相化石として有効な条件

しかし、どんな化石でも示相化石として使えるわけではありません。有効な示相化石となるには、いくつかの条件を満たす必要があります。

第一に、その生物の生息条件が比較的狭く限定されていること。広範囲な環境に適応できる生物の化石では、環境を特定するのが難しいためです。
第二に、現代に生きている近縁種との比較などから、その化石生物の生息環境をある程度推測できること。
* そして最も重要なのが、現地性（げんちせい）であることです。

現地性か、異地性か

「現地性」とは、生物がそこで生きて死に、その場所で堆積物に取り込まれて化石になった状態を指します。一方、「異地性（いちせい）」の化石は、生物が死んだ後、川の流れや海底地すべりなどによって本来の生息場所から運ばれてきたものです。示相化石として利用できるのは、あくまで現地性の化石だけです。異地性の化石は、化石が含まれる地層本来の環境とは異なる場所で形成されたものであるため、誤った環境推定につながる可能性があります。

現地性の化石と異地性の化石を見分けるのは必ずしも容易ではありませんが、運搬されずにその場で埋もれた化石は、比較的破損が少なく、保存状態が良い傾向があります。また、陸上で生息していた生物の化石が、明らかに海で堆積した地層から、海の生物の化石と一緒に見つかる場合、陸上生物の化石は海に流されてきた異地性のものと判断できます。このように、化石が発見された状況や保存状態、共産する他の化石の種類などを総合的に判断することが、示相化石を正しく利用するために不可欠です。

まとめ

示相化石は、過去の生物の「生活の証」を通じて、見かけ上の地層からは直接読み取れない当時の環境条件を明らかにし、古気候変動や古地理の復元に貢献する貴重な地質情報源と言えるでしょう。示準化石が地層の「時代」を示すのに対し、示相化石は地層の「場所（環境）」を示す点で対照的であり、地質学研究の両輪となっています。

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