社会安全省

北朝鮮社会安全省：体制維持の要

社会安全省（朝鮮語: 사회안전성）は、北朝鮮における警察機能を担う重要な機関です。他国の内務省に相当しますが、単なる治安維持にとどまらず、住民の厳格な統制を通じて体制を維持する役割を担っている点が特徴です。内閣ではなく、国務委員会の直属機関であることからも、その重要性が伺えます。

歴史的変遷

社会安全省の歴史は、第二次世界大戦終結後の混乱期に遡ります。

初期の治安組織: 戦後、右派・左派・ソ連軍出身者による様々な治安組織が乱立しましたが、ソ連軍の命令により解体され、保安隊として再編されました。
行政機構への組み込み: 保安隊は五道行政局、北朝鮮臨時人民委員会、北朝鮮人民委員会と行政機構の変遷とともに、保安局、内務局へと名称を変えながら治安維持業務を管掌しました。
民族保衛局の分離: 1948年には、内務局から民族保衛局（後の民族保衛省）が分離され、軍事関連の治安機能を担うことになりました。
社会安全省の創設と再編: 朝鮮民主主義人民共和国建国後、内務省が設置されましたが、朝鮮戦争中の1951年に社会安全省が分離独立。しかし、1年7ヶ月後には再び内務省に統合され社会安全局となりました。その後、1962年に社会安全省が復活し、内務省は国土管理業務に特化することになります。
社会安全部の時代: 1972年の社会主義憲法採択により、社会安全省は社会安全部へと改編。さらに、国家政治保衛部が分離され、秘密警察業務を担うことになりました。1980年代には沿岸警備・国境警備業務も国家政治保衛部へ移管されています。
苦難の行軍と深化組: 1990年代後半の大飢饉「苦難の行軍」を機に、秘密警察組織「深化組」が創設され、大規模な粛清事件を引き起こしました。
人民保安省・部への変遷: 2000年に人民保安省へ改称、2010年には人民保安部に格上げされ国防委員会直属となりましたが、2016年に再び人民保安省へ格下げされました。
社会安全省の復活: 2020年、社会安全省の名称が再び復活し、現在に至ります。

組織と機能

社会安全省の本部庁舎は、平壌直轄市に位置しています。組織は、道社会安全局、市・郡社会安全部、区域安全部、分駐所といった階層構造を持ち、各行政区域における治安維持活動を行っています。日本の警察組織に類似した構造と言えるでしょう。

社会安全省の幹部は、朝鮮人民軍と同一の階級を受け、一部は正規軍部隊に勤務することもあります。下級組織の警察職員は「社会安全員」と呼ばれ、有事の際には人民武力省の指揮下に入ることもあります。

歴代相・部長

社会安全省（部）の長は、時代によって名称が異なりますが、歴代の責任者は以下の通りです。

方学世（1951年3月）
石山（1962年10月、1967年12月）
金炳河
李鎮洙
白鶴林（1985年、2000年4月? - 2003年7月?）
崔龍洙（2003年7月 - 2004年7月?）
朱霜成（2004年7月 - 2011年3月15日）
李明秀（2012年4月 - 2013年2月）
崔富日（2013年2月 - 2019年12月）
金正浩（2019年12月 - 2021年1月）
李永吉（2021年1月？- 2021年7月）
金正浩（2021年7月 - 2021年9月）
張正男（2021年9月-2021年12月）
李泰燮（2021年12月-2022年6月 ）
朴秀逸（2022年6月-2022年12月）
李泰燮（2022年12月-2024年7月）
方斗燮（2024年7月-　）

参考資料

전현준『북한의 사회통제 기구 고찰 :인민보안성을 중심으로』통일연구원、2003年。

関連項目

国家保衛省：北朝鮮の秘密警察
朝鮮民主主義人民共和国の強制収容所

もう一度検索