祇園闘乱事件

祇園闘乱事件：平清盛と延暦寺の対立、そして武士の台頭

久安3年（1147年）、祇園社の祭礼の夜、平清盛は祈願成就のため田楽を奉納しました。しかし、護衛の郎党が携行していた武具を祇園社の神人に咎められ、小競り合いが発生。事態はさらに悪化し、放たれた矢が宝殿に命中、多数の負傷者を出しました。この事件、後世「祇園闘乱事件」と呼ばれるこの騒動は、やがて朝廷を揺るがす大きな争いの引き金となります。

事件の発端と拡大

祇園闘乱事件の経緯は、『本朝世紀』や『台記』などの歴史書から知ることができます。祭礼での小競り合いは、当初は小さな出来事として片付けられそうでした。しかし、事件の報告を受けた延暦寺は、ただちに朝廷に訴え出ます。延暦寺は祇園社の本寺でもあったため、この事件を無視することはできませんでした。

平清盛の父、平忠盛は、事態を鎮めようと、事件に関与した郎党7名を自ら院庁に引き渡し、法皇は検非違使庁に引き渡しました。しかし、延暦寺側は納得せず、大衆を糾合し、忠盛・清盛父子への配流を要求する強訴に発展しました。強訴とは、寺社勢力が朝廷に圧力をかけるため、集団で京に押し寄せ抗議する行動です。

延暦寺の大衆は、日枝社・祇園社の神人と共に神輿を担ぎ上げ、洛中に響き渡るほどの激しい叫び声を上げながら、朝廷への圧力を強めました。朝廷は、源光保らを率いる兵を動員し、延暦寺大衆の京への侵入を阻止しようとしました。

朝廷の対応と事件の収束

法皇は、事態の収拾を図るため、公卿による議定を開きました。議定では、忠盛の関与の有無や、事件の責任の所在をめぐって激しい議論が交わされました。藤原頼長は、清盛が直接関与していなくとも、郎党が事件を起こした責任は清盛にもあると主張しました。

様々な議論が交わされた結果、清盛は「贖銅三十斤」という罰金刑を科せられました。延暦寺側は納得できませんでしたが、朝廷は、奉幣使を祇園社に派遣し、贖銅の太政官符に捺印する儀式を行い、事件に一応の終止符を打ちました。

しかし、延暦寺内部では、強訴に消極的な上層部への不満が爆発。延暦寺内で内紛が発生し、数ヶ月間にわたって混乱が続きました。朝廷は、延暦寺の怒りを鎮めるため、翌年には祇園社で法華八講を行い、忠盛も自領を祇園社に寄進するなど、関係修復に努めました。

祇園闘乱事件の影響

祇園闘乱事件は、平清盛父子にとって大きな危機でしたが、鳥羽法皇の庇護により難を逃れました。しかし、この事件は清盛の官途への昇進を一時的に停滞させる結果となりました。一方、朝廷にとっては、延暦寺の強訴を武力によって抑制できたことは大きな自信となり、武士の政治的役割の重要性を改めて認識させる契機となりました。

事件後、朝廷では衛門府・兵衛府・馬寮などの武官職が増員され、武士の中央への進出が加速しました。祇園闘乱事件は、平安時代後期、武士の台頭を促進する一端となった重要な事件であったと言えるでしょう。事件解決にあたり動員された武士は、源氏、平氏など様々な氏族に属する者で、彼らの氏族や所属官職など詳細な記録も残されています。

まとめ

祇園闘乱事件は、一見小さな小競り合いから始まった事件でしたが、延暦寺の強訴を誘発し、朝廷政治、武士の台頭、さらには平清盛の将来にまで大きな影響を与えました。この事件は、平安時代末期の社会情勢を理解する上で、非常に重要な歴史的事実と言えます。

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