神の御名の礼拝

神の御名の礼拝 (La adoración del nombre de Dios)

フランシスコ・デ・ゴヤによって1772年に制作された『神の御名の礼拝』は、サラゴサのヌエストラ・セニョーラ・デル・ピラール聖堂の聖歌隊席のための天井画です。この作品はゴヤにとってイタリア旅行から帰国後、最初に依頼された大作であり、彼のキャリアにおいて重要な位置を占めています。

制作のバックグラウンド

1771年、サラゴサの首都大司教座聖堂参事会は、聖堂内の聖歌隊席に新たな天井画を設置することを計画しました。このプロジェクトは若いゴヤに依頼されることが検討され、彼のイタリアでの経験が期待されました。聖歌隊席は1750年代から設計されており、既存のフレスコ画に続く作品として、この新たな天井画が制作されるのです。過去の会議で、ゴヤは準備習作を制作することに同意され、その内容は王立サン・フェルナンド美術アカデミーの基準を満たすものでなければなりませんでした。

ゴヤは早速フレスコ画を作成し、その技能を示しました。翌月にはアカデミーの承認を得て、契約が結ばれます。この時点で彼には一定の報酬が提示され、実際に制作が開始されました。制作は順調に進み、約2ヶ月で完成し、最終的な報酬が支払われました。

作品の特徴

『神の御名の礼拝』は、黄金色の雲の中に神を礼拝するさまざまな天使やプットーが描かれています。画面中心には三位一体を象徴する正三角形があり、その内部には聖四文字がヘブライ文字で表現されています。この正三角形は、礼拝の対象である神がどのように天使たちに現れるのかを示しています。ゴヤは神の来臨を描写し、その背後には壮麗かつ神秘的な雰囲気が漂っています。

作品中の天使たちはそれぞれ異なる役割を持ち、画面の隅々には楽器を持った奏楽天使の姿や、香炉を持つ天使が描かれています。特に香炉を持つ天使は、神の前に立つ人間の役割を象徴しており、その姿勢は感謝と崇拝を表現しています。この天使は他の天使たちとは異なり、跪いており、その存在感が際立っています。色使いや構図においても、ゴヤの巧みな技術が際立っており、ロココとバロック様式の要素を織り交ぜた作品となっています。

歴史的背景

しかしこの作品には複雑な歴史があります。1936年のスペイン内戦の際、聖堂は爆撃を受け、爆弾の一発が『神の御名の礼拝』の一部に損傷を与えました。現在でもその痕跡は残っており、歴史的な出来事を物語っています。

このように、ゴヤの作品『神の御名の礼拝』は、技術的なスキルと宗教的なテーマを見事に織り交ぜた代表作であり、ロマン主義の中でも一際際立つ存在です。彼のこの天井画は、サラゴサの宗教的な重要性とアートへの貢献を結び付ける、類まれなる価値を持っています。

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