神光院

神光院（じんこういん）

概要

京都市北区に位置する神光院は、真言宗系の単立寺院です。山号は放光山と称し、本尊には弘法大師（空海）像を祀っています。この本尊は特に「厄除け大師」として古くから篤い信仰を集めており、京都に数多く存在する弘法大師ゆかりの寺院の中でも、東寺（教王護国寺）、仁和寺と並んで「京都三大弘法」の一つに挙げられるほど重要な存在です。地元の人々からは親しみを込めて「西賀茂の弘法さん」と呼ばれ、広く親しまれています。

当院の年中行事として特筆されるのが、毎年7月下旬に行われる「きゅうり封じ」（きうり加持）です。これは、弘法大師空海がキュウリに疫病を封じ込めて人々の病気平癒を祈願したという故事に由来するもので、夏の疫病除けや健康増進を願う多くの参拝者で賑わいます。

境内は静かで落ち着いた雰囲気を持ち、これが評価され、しばしば時代劇のロケ地として利用されてきました。『銭形平次』や『御家人斬九郎』、『暴れん坊将軍』といった著名な作品の撮影もここで行われています。

また、神光院は「花の寺」としても知られ、境内では四季を通じて様々な種類の花木が訪れる人々の目を楽しませます。中でも珍しいのが、12月頃に咲く白い八重咲きのサザンカです。この品種は当院にのみ自生しているとされ、晩秋から初冬にかけてひっそりと美しい花を咲かせます。

歴史

当院の創建は建保5年（1217年）に遡ります。当時、賀茂別雷神社（上賀茂神社）の神職であった松下能久が、「霊妙な光が差し示した場所に寺を建立せよ」という神の啓示（神託）を受けました。この神託に基づき、能久は大和国から高僧・慶円を招き、一宇を建立したのが始まりと伝えられています。寺院の名前である「神光院」も、この「霊光」の由緒にちなんで名づけられました。

興味深いことに、寺が創建される以前、この地は京都御所へ瓦を奉納する瓦職人たちの宿舎として使われており、「瓦屋寺」と俗称されていた時期があったといいます。

神光院の歴史において、弘法大師空海の存在は極めて重要です。伝えられるところによれば、空海が42歳の時、厄年であったことから当院において九十日間にわたる厳しい修行を行ったとされています。修行を終えて寺を去るにあたり、空海は境内の池の水面に映る自身の姿を写し取って木像を彫り、人々の厄除けを祈願したと伝わります。この像が現在、本堂に安置されている本尊であるとされています。また、空海がこの地で眼病の治癒を願う祈祷を行っていたことから、神光院は古くから眼病に利益がある寺としても信仰を集めるようになりました。

その後、神光院は密教の重要な道場として一時は栄えましたが、天保年間（1830年 - 1843年）に伽藍を焼失するなど、幾度かの苦難に見舞われました。

幕末から明治にかけて活躍した女流歌人であり陶芸家でもあった大田垣蓮月尼は、晩年の75歳を迎えてから当院に隠棲しました。境内には、蓮月尼が晩年を過ごしたゆかりを示す「蓮月尼旧栖之茶所」と刻まれた石碑が今も残り、また彼女が使用したとされる茶室「蓮月庵」も現存しています。蓮月尼が隠棲していた明治時代初期には、全国的に吹き荒れた廃仏毀釈運動の影響を受けて神光院も一旦は廃寺となってしまいました。しかし、蓮月尼の没後、明治11年（1878年）になって、僧侶・和田月心によって再興され、現在に至っています。

文化財

神光院には数多くの貴重な文化財が伝わっています。

重要文化財

絹本著色仏眼曼荼羅図
悉曇略記 寛治八年跋
細字金光明最勝王経 2巻

登録有形文化財

平成23年（2021年）には、近世以降の境内を特徴づける建造物として、以下の5棟が国の登録有形文化財に登録されました。

本堂
中興堂
客殿
蓮月庵
山門

旧蔵国宝

神光院がかつて所蔵していた文化財の中には、現在国の国宝となっているものが3件あります。これらは現在、所蔵先が移されていますが、神光院の歴史的な重要性を示すものと言えるでしょう。

白描絵料紙金光明経（京都国立博物館所蔵）
金剛般若経開題残巻　空海筆（京都国立博物館所蔵）
碣石調幽蘭（東京国立博物館所蔵）

関連項目

大徳寺通 - かつては当院への参道であったこの通りには、「神光院参道」と刻まれた標石が随所に残っています。
* 大将軍神社 - 周辺地域一帯の鎮守とされる神社です。

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