神宮徴古館
伊勢神宮の広大な敷地の一角、倉田山に位置する神宮徴古館は、単なる博物館ではなく、神宮が公益事業として運営する複合的な文化施設群です。その設立理念は、神宮規則第63条に明記されており、「神宮の歴史と日本文化の移り変わりを示す資料を後世に伝え、広く公開することで、文化の向上と産業の振興に貢献する」ことを目的としています。この施設は、主に神宮徴古館、神宮農業館、そして式年遷宮記念神宮美術館の三つの柱で構成されています。
神宮徴古館：神宮の深い歴史と、それとともに発展してきた日本の文化、特に由緒ある祭祀や伝統に関わる品々を中心に展示する「歴史と文化の総合博物館」としての役割を担います。式年遷宮によって新調される神宝の一部（撤下神宝）など、普段目にすることのできない貴重な資料が公開されています。
神宮農業館：農業、水産、林業といった第一次産業に関する資料を扱います。「自然の恵みが私たちの生活にどう活かされているか」を主題とし、神宮の神饌自給体制を支える伝統的な農林水産業に関連する物品を収集・展示しています。
* 式年遷宮記念神宮美術館：式年遷宮という節目を記念して建てられた美術館です。当代を代表する芸術家たちが神宮へ奉納した作品を収蔵・展示しており、日本の美術工芸の保存と研究、そして発展を目指しています。
神宮徴古館の歴史は、明治時代に伊勢神宮周辺の整備を目的として結成された神苑会に始まります。1891年（明治24年）には、神苑会によって外宮前に日本初の産業博物館とされる農業館が設立されました。この建物は、奈良国立博物館などを手掛けた建築家、片山東熊が設計した木造の和洋折衷建築で、平等院鳳凰堂を模したと言われています。
その後、神苑会は現在の倉田山に広大な土地を取得し、歴史博物館としての徴古館の設立を計画します。日露戦争による延期を経て、1905年（明治38年）には農業館が倉田山へ移築・増築され、伊勢神宮に奉納されました。続いて1909年（明治42年）には、農業館と同じく片山東熊設計による徴古館が完成し、日本で最初の私立博物館として開館します。
開館当時の徴古館は、ルネッサンス様式の美しい西洋風建築で、ベルサイユ宮殿を模した前庭を持ち、中央にはドームが配されていました。鉄筋コンクリート造りの平屋建てで、東京国立博物館の表慶館とも趣が似ていたと言われます。内部には貴賓室が設けられ、大正天皇や昭和天皇（いずれも当時皇太子）をはじめ、多くの皇族や要人が参拝時の休憩所として利用しました。1940年（昭和15年）には、満州国皇帝溥儀もここを訪れています。
しかし、第二次世界大戦末期の1945年（昭和20年）、宇治山田空襲により徴古館は炎上し、外壁を残して建物の大部分と収蔵品の多くを失うという甚大な被害を受けました。
戦後、第59回神宮式年遷宮を記念して、1953年（昭和28年）に徴古館は再建されます。この際、ドームや貴賓室は再現されず、建物も鉄筋コンクリート2階建てへと変更されました。その後、1985年（昭和60年）には新館が増築されています。
一方、農業館は1993年（平成5年）、第61回式年遷宮を記念して神宮美術館が建設されることになったため、その場所を譲り、一時閉館して敷地東側へ移築されました。この移築時に建物は規模が縮小され、形状も変更されています。神宮美術館は、日本芸術院会員の大江宏が設計し、伝統的な日本の建築様式を取り入れつつ、現代的な感覚で仕上げられた建物です。
皇大神宮鎮座2000年にあたる1996年（平成8年）には、空襲を免れた有栖川宮熾仁・威仁親王の銅像が修復されるとともに、かつて設けられていた貴賓室が復活し、2000年（平成12年）からは随時一般公開されるようになりました。そして1998年（平成10年）、徴古館と農業館は、歴史的価値が認められ、国の登録有形文化財に登録されています。
徴古館では、約8,000点に及ぶ資料が所蔵されており、その中には国の重要文化財11点が含まれます。展示の中心は、式年遷宮によって役目を終えた古い御装束神宝や、内宮正宮の精密な模型、遷宮で解体された旧社殿の一部などです。また、古墳時代の出土品、歴史的な古文書、国史絵画、伊勢ゆかりの文化人に関する資料なども見ることができます。
農業館では、神宮と農業の深いつながりを示す資料、神宮の神饌自給体制に関する品々、皇室からの下賜品、神嘗祭に奉納される御田の稲穂などが展示されています。
美術館では、文化勲章受章者や文化功労者など、日本を代表する美術家・工芸家から神宮へ奉納された優れた作品が展示されています。
所蔵文化財には、国指定重要文化財として「紙本著色伊勢新名所絵歌合」「毛抜形太刀」「古文尚書」「据台付子持はそう」「渋川春海天文関係資料」「角屋家貿易関係資料」などがあります。ただし、伊勢神宮所有の指定文化財は神宮文庫などに分散して保管されているものもあるため、これらが全て徴古館内で常時公開されているわけではありません。
神宮徴古館は、近鉄五十鈴川駅から徒歩約15分、JR伊勢市駅からはやや距離がありますが、バス利用も可能です。「徴古館前」バス停や、周遊バス「CANばす」の停留所があります。車でのアクセスも可能で、伊勢自動車道伊勢ICから近く、駐車場も備えています。
周辺には、伊勢神宮の図書館である神宮文庫、皇學館大学の佐川記念神道博物館、皇大神宮別宮である倭姫宮（徴古館のすぐ西側）、さらに南へ行くと月讀宮など、伊勢神宮に関連する施設が点在しています。また、厄除け観音として知られる松尾観音寺も近くにあります。
神宮徴古館とその関連施設は、伊勢神宮の信仰の歴史、日本の伝統文化、そして産業や美術の発展を多角的に知ることができる貴重な文化交流の場として、今日までその役割を果たし続けています。
施設の概要と目的
神宮徴古館：神宮の深い歴史と、それとともに発展してきた日本の文化、特に由緒ある祭祀や伝統に関わる品々を中心に展示する「歴史と文化の総合博物館」としての役割を担います。式年遷宮によって新調される神宝の一部（撤下神宝）など、普段目にすることのできない貴重な資料が公開されています。
神宮農業館：農業、水産、林業といった第一次産業に関する資料を扱います。「自然の恵みが私たちの生活にどう活かされているか」を主題とし、神宮の神饌自給体制を支える伝統的な農林水産業に関連する物品を収集・展示しています。
* 式年遷宮記念神宮美術館：式年遷宮という節目を記念して建てられた美術館です。当代を代表する芸術家たちが神宮へ奉納した作品を収蔵・展示しており、日本の美術工芸の保存と研究、そして発展を目指しています。
沿革：明治から現代へ
神宮徴古館の歴史は、明治時代に伊勢神宮周辺の整備を目的として結成された神苑会に始まります。1891年（明治24年）には、神苑会によって外宮前に日本初の産業博物館とされる農業館が設立されました。この建物は、奈良国立博物館などを手掛けた建築家、片山東熊が設計した木造の和洋折衷建築で、平等院鳳凰堂を模したと言われています。
その後、神苑会は現在の倉田山に広大な土地を取得し、歴史博物館としての徴古館の設立を計画します。日露戦争による延期を経て、1905年（明治38年）には農業館が倉田山へ移築・増築され、伊勢神宮に奉納されました。続いて1909年（明治42年）には、農業館と同じく片山東熊設計による徴古館が完成し、日本で最初の私立博物館として開館します。
開館当時の徴古館は、ルネッサンス様式の美しい西洋風建築で、ベルサイユ宮殿を模した前庭を持ち、中央にはドームが配されていました。鉄筋コンクリート造りの平屋建てで、東京国立博物館の表慶館とも趣が似ていたと言われます。内部には貴賓室が設けられ、大正天皇や昭和天皇（いずれも当時皇太子）をはじめ、多くの皇族や要人が参拝時の休憩所として利用しました。1940年（昭和15年）には、満州国皇帝溥儀もここを訪れています。
しかし、第二次世界大戦末期の1945年（昭和20年）、宇治山田空襲により徴古館は炎上し、外壁を残して建物の大部分と収蔵品の多くを失うという甚大な被害を受けました。
戦後、第59回神宮式年遷宮を記念して、1953年（昭和28年）に徴古館は再建されます。この際、ドームや貴賓室は再現されず、建物も鉄筋コンクリート2階建てへと変更されました。その後、1985年（昭和60年）には新館が増築されています。
一方、農業館は1993年（平成5年）、第61回式年遷宮を記念して神宮美術館が建設されることになったため、その場所を譲り、一時閉館して敷地東側へ移築されました。この移築時に建物は規模が縮小され、形状も変更されています。神宮美術館は、日本芸術院会員の大江宏が設計し、伝統的な日本の建築様式を取り入れつつ、現代的な感覚で仕上げられた建物です。
皇大神宮鎮座2000年にあたる1996年（平成8年）には、空襲を免れた有栖川宮熾仁・威仁親王の銅像が修復されるとともに、かつて設けられていた貴賓室が復活し、2000年（平成12年）からは随時一般公開されるようになりました。そして1998年（平成10年）、徴古館と農業館は、歴史的価値が認められ、国の登録有形文化財に登録されています。
主な展示と所蔵品
徴古館では、約8,000点に及ぶ資料が所蔵されており、その中には国の重要文化財11点が含まれます。展示の中心は、式年遷宮によって役目を終えた古い御装束神宝や、内宮正宮の精密な模型、遷宮で解体された旧社殿の一部などです。また、古墳時代の出土品、歴史的な古文書、国史絵画、伊勢ゆかりの文化人に関する資料なども見ることができます。
農業館では、神宮と農業の深いつながりを示す資料、神宮の神饌自給体制に関する品々、皇室からの下賜品、神嘗祭に奉納される御田の稲穂などが展示されています。
美術館では、文化勲章受章者や文化功労者など、日本を代表する美術家・工芸家から神宮へ奉納された優れた作品が展示されています。
所蔵文化財には、国指定重要文化財として「紙本著色伊勢新名所絵歌合」「毛抜形太刀」「古文尚書」「据台付子持はそう」「渋川春海天文関係資料」「角屋家貿易関係資料」などがあります。ただし、伊勢神宮所有の指定文化財は神宮文庫などに分散して保管されているものもあるため、これらが全て徴古館内で常時公開されているわけではありません。
アクセスと周辺情報
神宮徴古館は、近鉄五十鈴川駅から徒歩約15分、JR伊勢市駅からはやや距離がありますが、バス利用も可能です。「徴古館前」バス停や、周遊バス「CANばす」の停留所があります。車でのアクセスも可能で、伊勢自動車道伊勢ICから近く、駐車場も備えています。
周辺には、伊勢神宮の図書館である神宮文庫、皇學館大学の佐川記念神道博物館、皇大神宮別宮である倭姫宮（徴古館のすぐ西側）、さらに南へ行くと月讀宮など、伊勢神宮に関連する施設が点在しています。また、厄除け観音として知られる松尾観音寺も近くにあります。
神宮徴古館とその関連施設は、伊勢神宮の信仰の歴史、日本の伝統文化、そして産業や美術の発展を多角的に知ることができる貴重な文化交流の場として、今日までその役割を果たし続けています。
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