神戸の長吉

神戸長吉：侠客としての生涯

神戸長吉（かんべのながきち、1814年 - 1880年3月20日）は、幕末に活躍した日本の侠客です。本名を初芝才次郎といい、若い頃は吉五郎と名乗っていました。村上元三の小説『次郎長三国志』に登場し、「荒神山の喧嘩」の中心人物として知られています。

生い立ちと渡世人としての出発

長吉は1814年、下総国千葉郡浜野村（現在の千葉県千葉市中央区浜野町）で生まれました。若い頃に地元を出奔し、吉五郎と名を変え渡世人として生きていました。伊勢国河曲郡神戸城下（現在の三重県鈴鹿市神戸）に流れ着いた頃には、すでに中年になっていたとされます。この地で一家を構え、長身で面長であったことから「神戸の長吉」と呼ばれるようになりました。

神戸での活動

神戸では、神戸藩の伝馬御用を請け負う傍ら、地蔵院で賭場を開いていました。また、日永の追分の神戸屋祐蔵の配下に入り、荒神山の賭場の権利を譲り受けていました。この賭場は非常に繁盛し、「千両かすりの賭場」と呼ばれたそうです。

穴太徳次郎との関係と抗争

長吉は、同じく神戸屋の配下であった穴太徳次郎と兄弟分の間柄でした。しかし、桑名宿で長吉の養子である久居才次郎が喧嘩をしたことがきっかけで、両者の間に抗争が勃発します。1864年、長吉らは報復として穴太徳一派を斬りつけ、逃亡を余儀なくされました。その間に、穴太徳一派は荒神山の賭場を奪い取りました。

荒神山の喧嘩

1866年、長吉は義兄弟分の吉良の仁吉に相談し、荒神山の賭場を取り戻すための戦いを挑みます。これが「荒神山の喧嘩」です。仁吉は清水次郎長と同盟関係にあったため、大政、関東綱五郎らと共に長吉に加勢しました。この戦いで仁吉は重傷を負い、長吉自身も「卑怯者」「臆病者」と描かれることもありましたが、これは史実とは異なる創作によるものでした。実際には、長吉は戦いに参加し、多くの部下を失っています。

その後と晩年

「荒神山の喧嘩」の後、長吉は郷里の浜野村に戻っていましたが、明治維新後に神戸に戻り、十日市町に居を構えました。1871年には荒神山手打式が行われましたが、その際の集合写真には長吉の姿はありません。跡目は養子の久居才次郎ではなく、弟分の糸屋の市五郎が継ぎました。長吉は1880年に病気で亡くなりました。墓は、三重県鈴鹿市の妙祝寺にあります。

フィクションにおける神戸長吉

フィクション作品では、長吉はしばしば「卑怯者」「臆病者」として描かれますが、これは三代目神田伯山の創作によるもので、史実とは異なります。長吉は、吉良の仁吉や清水次郎長と比較して、気の弱い人物として描かれることが多いですが、実際の長吉は、侠客として確固たる信念を持って行動していた人物でした。

映画における神戸長吉

多くの映画で神戸長吉が描かれています。初期の作品では、その人物像が十分に描写されていなかったり、誤った解釈がされたりしていましたが、後年の作品では、史実に基づいた描写がされるようになりました。

主な映画作品には以下のようなものがあります。

『荒神山の血煙』（1925年）
『血煙荒神山』（1929年）
『次郎長一家』（1938年）
『虎造の荒神山』（1940年）
『乱れ星荒神山』（1950年）
『次郎長三国志 第九部 荒神山』（1954年）
『二十九人の喧嘩状』（1957年）
『任侠清水港』（1957年）
『次郎長富士』（1959年）
『勢揃い東海道』（1963年）

これらの映画では、長吉の人物像や「荒神山の喧嘩」が様々な形で描かれており、作品によって解釈が異なる点が興味深いです。

まとめ

神戸長吉は、幕末の動乱期を侠客として生きた人物です。その生涯は、小説や映画によって様々な形で語られていますが、史実とフィクションの違いを理解することで、より深く長吉の実像に迫ることができます。

参考文献

『東海遊侠伝 一名次郎長物語』、山本鉄眉、与論社、1884年
『類聚伝記大日本史 義人・武侠篇』、笹川臨風、雄山閣、1936年
『郷土史料 荒神山物語』、堀文次、鈴鹿市文化協会、1963年
『日本俠客100選』、今川徳三、秋田書店、1971年
* 『発掘 街道の文学 四日市・楠編』、志水雅明、伊勢新聞社、2002年

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