神戸高塚高校校門圧死事件

神戸高塚高校校門圧死事件

1990年7月6日、兵庫県立神戸高塚高等学校で、登校時間に取り締まりをしていた教諭が校門を閉めようとした際、駆け込もうとした女子生徒が門扉に挟まれ死亡した事件です。この事件は、管理教育や校則のあり方、教師の責任など、教育現場における様々な問題点を浮き彫りにしました。

事件発生までの背景

教諭の過去

担当教諭であった細井敏彦は、過去に赴任した工業高校で、生徒指導において困難な経験をしました。不良生徒からの嫌がらせや暴力行為に直面し、力で対抗できないと悟ると、生徒たちは暴言や授業妨害といった陰湿な手段に移行しました。この経験から、細井は校則を徹底的に守らせることの重要性を強く認識するようになりました。その後の高塚高校への赴任では、生徒指導部を希望せず、他の部署を希望していました。しかし、体格の良さから生徒指導部への配属を強く指示され、生徒指導に携わることになります。

学校の状況

当時の高塚高校は、校長が生徒指導協議会の要職を務めるなど、管理教育を重視する姿勢が強く、学校安全に関する研究指定校でもありました。全教員による校門指導は、協議会でも高く評価されていました。事件前日、被害者は友人と共に、いつもより遅い電車で登校したものの、門限には間に合っていました。事件当日、被害者はバスケ部の先輩から写真を受け取る約束があったため、前日と同じ電車で登校することにしましたが、実際には先輩はそのような約束をしていませんでした。また、先輩は被害者と同じ電車で登校したものの、門限には余裕があったと証言しています。

事件の発生

事故当日

1990年7月6日午前8時過ぎ、複数の教諭が校門付近で遅刻指導を行っていました。そのうち1人は、ハンドマイクで注意を促していました。午前8時30分のチャイムと同時に、細井は重さ約230キロの鉄製の門扉を閉めました。その際、門を避けるように入ってきた生徒はいたものの、他に生徒の姿は見えなかったと証言しています。被害者と友人は、校門手前で走り出し、チャイムを聞いた後、さらに加速しました。被害者は他の生徒を追い抜いて校門に近づき、前屈みになって進入しようとしました。細井は、生徒の影から飛び込んできた被害者に気づかないまま、門扉を閉めました。

事故発生直後

被害者は門扉と門柱の間に頭を挟まれ、重傷を負いました。細井は、野球部の監督経験から、応急処置を施したと主張していますが、被害者は搬送先の病院で死亡しました。学校側は、警察の現場検証前に現場の血痕を洗い流し、事件当日の試験を予定通り実施しました。また、生徒の質問に対して「重傷だが、命に別状はない」と説明しました。

その後の経過

学校側の対応

文部省は、この事件を教諭個人の問題とし、学校側の責任を否定しました。学校側は、この見解を受け入れ、教師個人の責任を主張しました。保護者会では、事件に関する情報を隠蔽しようとする動きが見られました。兵庫県教育委員会は、細井を懲戒免職処分とし、校長らを戒告処分としました。しかし、校門閉鎖を提案した教員や生活指導部長への処分はありませんでした。細井は処分を不服として申し立てを行いましたが、有罪確定により取り下げられました。

損害賠償

学校側は安全管理上の過失を認め、被害者の遺族に損害賠償金6,000万円を支払うことで示談が成立しました。

校門指導の問題点

遅刻者に対する罰として、校庭を走らせるなどの措置は、8時35分のホームルームに間に合わせないようにするためのものでした。学校側は、校則遵守を徹底させることで、校内の風紀を正すという考えを持っていました。

細井への刑事処分

裁判の経緯

細井は、業務上過失致死罪で起訴されました。裁判では、門扉の閉鎖は共同作業であり、予見不可能であったと主張し、無罪を主張しました。しかし、神戸地方裁判所は、門扉の閉鎖は危険な行為であり、生徒が駆け込んでくる可能性は予見できたとして、細井に禁錮1年、執行猶予3年の有罪判決を言い渡しました。細井は控訴を断念し、有罪が確定しました。これにより、教員免許を失いました。

細井の書籍出版

細井は、有罪確定後に事件を題材とした書籍を出版し、当時の状況や自己の認識を語りました。その中で、警察的な校門指導を正義だと信じていたことや、学校からの指導によって、そうした考えに慣れていたことを明かしました。しかし、自身の過失責任については、否定的な態度を貫いています。

門扉の撤去

撤去までの経緯

学校側は、事件直後に門扉を撤去しようとしましたが、保護者らの反対により延期されました。細井の有罪確定後、再度撤去が進められましたが、PTAや保護者への説明は行われませんでした。住民は撤去の不当性を訴えましたが、最高裁で訴えが棄却されました。その後、小型で軽量な門扉が設置されました。

事件の影響

社会的な影響

この事件は、校門指導や管理教育、校則の是非について、社会的な議論を巻き起こしました。兵庫県議会では、校門指導の廃止や校則の見直しを求める動きがありました。高塚高校は、事件年度のインターハイ出場と大学からの推薦校指定を辞退しました。

関連書籍

事件を多角的に捉えた複数の書籍が出版されました。生徒たちの声を集めたもの、当事者であった細井による告白本などがあります。

まとめ

神戸高塚高校校門圧死事件は、教育現場における管理体制や安全対策の不備を浮き彫りにした悲劇です。この事件を教訓に、二度とこのような悲劇が繰り返されないよう、教育関係者だけでなく、社会全体で取り組む必要があります。

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