神武 (漫画)

安彦良和『神武』作品解説

『神武』は、安彦良和氏が手掛けた歴史漫画作品で、『古事記』を題材にした壮大な物語です。前作『ナムジ』に続く連作として位置づけられ、日本神話を大胆な解釈と創作を交えて描いています。

出版経緯

1992年から1995年にかけて徳間書店より全5巻の単行本として刊行されました。その後、中央公論新社から中公文庫コミック、コンビニコミックとして再版され、角川書店からも角川コミックス・エースとして新版が刊行されています。

あらすじ

物語は三世紀初頭、ナムジとその家族が沖ノ島に隠棲して十数年後から始まります。倭国の覇権を巡る情勢は邪馬台国が優位となり、出雲を追い詰めます。邪馬台軍はナムジの末子ツヌヒコを出雲王に擁立しようと沖ノ島に押し寄せ、ナムジは家族を引き渡す代わりに自らは海に没します。

父を失ったナムジの息子ツノミは、幼馴染みを殺されたことも重なり、邪馬台への復讐を誓います。出雲が邪馬台に降伏すると、ツノミは両陣営から命を狙われ、伯父ニギハヤヒ（オオドシ）の元へ身を寄せます。

オオドシの後見で成長したツノミは、宇陀のツチグモ族を服属させるなど国作りに貢献します。もう一人の伯父イタケルから邪馬台の話を聞き、興味を持ったツノミは共に日向へ向かいます。日向でイワレヒコに出会ったツノミは、その志に共鳴し仕えることになります。

イワレヒコに仕えるようになったツノミは、妹テルヒメの夫ワカヒコに危機が迫っていることを知り出雲へ帰還しますが、ワカヒコは既に殺害されていました。仇であるサルタヒコを討ったツノミは、弟ツヌヒコの死を機に出雲との縁が切れたことを悟り、大和へ戻ります。オオドシから領地を与えられたツノミは、イワレヒコをミトシの縁談相手として推挙しますが、ナガスネの反対を受けます。

婚姻を実現させるため日向を再訪したツノミですが、イワレヒコは既に熊襲の姫を妻に迎えていました。計画は進むものの、イワレヒコ夫婦は引き裂かれ、ツノミも刺客によって従者を失います。大和へ帰還したツノミはナガスネに捕らえられ幽閉されますが、ミトシの手引きで脱出。一方、イワレヒコは東国へ向かいますが、ナガスネの軍勢に阻まれ苦戦します。

イワレヒコは弟ウカシの協力で宇陀を通り大和を目指しますが、兄ウカシに命を狙われます。ナガスネは抗戦を続けますが、ウマシマチに討たれます。アビヒコはイワレヒコを王として認め国を明け渡します。紆余曲折を経てイワレヒコとミトシの婚姻が成り、イワレヒコは大和の王として即位します。

数年後、ミトシはツノミへの恋心を募らせ、二人は過ちを犯してしまいますが、イワレヒコはツノミを許します。ヒミコはイワレヒコの娘を見て狂乱の末に息絶え、邪馬台国には不穏な未来が訪れることが暗示されます。さらに数年後、ツノミとミトシの間には息子が生まれますが、ウマシマチらの手によってツノミは暗殺されます。ナムジとツノミの親子二代による国作りは、大和という大国への布石となり物語は幕を閉じます。

登場人物

ツノミ - 賀茂建角身命。八咫烏のモデルとされる。
ツヌヒコ - 事代主。スサノオの後継者として出雲の王となる。
テルヒメ - ツノミの妹。ワカヒコと結婚する。
ナムジ - かつての出雲の国主。
イワレヒコ - 神武天皇。政略結婚によって大和へ向かう。
ヒミコ - 邪馬台国の女王。ツノミの祖母。
オオドシ - スサノオの三男。ツノミを養育する。
ミトシ - ヒメタタライスズヒメ。イワレヒコと政略結婚する。
ナガスネヒコ - 秦の技術を受け継ぐ大和の将軍。

関連作品

『蚤の王』
* 『ヤマトタケル』

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