神祇官 (明治時代)

明治維新期の国家機関：神祇官の興亡

明治維新後、日本の国家体制は大きく変容しました。その中で、朝廷の祭祀や宣教、さらには天皇陵の管理といった重要な役割を担ったのが神祇官です。本稿では、神祇官の設立から廃止、そしてその後継機関までをたどりながら、その変遷と意義を詳しく見ていきます。

神祇官の復興：古代官制の復活

明治維新初期、慶応4年（1868年）に神祇事務科が設置され、その後、神祇事務局へと改編されました。これは、古代の律令制に基づく官制を復活させる動きの一環でした。そして、同年閏4月、太政官の下に神祇官が正式に復興されました。この頃の神祇官は、古代の神祇官と同様、祭祀や祝部、神戸といった業務を担っていました。

明治神祇官：新たな職掌と課題

明治2年（1869年）6月には、神祇官は太政官から独立し、行政機関の筆頭に位置づけられました。職掌には、従来の祭祀業務に加え、新たなものとして天皇陵などの陵墓を管轄する諸陵と、国民への宣教が加わりました。特に宣教は、キリスト教の防禦と、維新後の国の在り方を国民に伝えることを目的としていましたが、官員間の対立や、組織力の不足から大きな成果を上げるには至りませんでした。

また、神祇官では、中世以来廃れていた八神殿の造営が提案されました。これは祭政一致の象徴的な取り組みでしたが、政府内部では様々な意見が対立しました。平田派の国学者たちは造営を強く主張した一方、福羽美静ら津和野派の国学者は、天皇親祭を重視し、八神殿造営には消極的でした。結果、明治2年12月には仮神殿が完成しましたが、完全な八神殿の造営は実現しませんでした。

一般には明治神祇官は平田派の国学者たちが主導したと思われがちですが、実際にはそう単純ではありません。主要な平田派の官僚たちが明治4年（1871年）に国事犯の嫌疑で追放されたためです。神祇官再興後は、むしろ福羽美静ら津和野派の国学者たちの影響力が強かったと考えられます。これは、復古主義的な平田派に対し、より開明的なビジョンを持っていた津和野派が、新時代を担う勢力として政府から支持されたことを示唆しています。

神祇省への改編と天皇親祭への移行

明治4年（1871年）8月、神祇官は神祇省に改編され、太政官の下に置かれました。これは地位の低下ではなく、祭政一致をより緊密にするための措置でした。神祇省では、神殿祭祀と宣教が明確に分掌されました。同年9月には、八神殿から皇霊を宮中に遷座することが決定され、翌年には神殿と皇霊殿が完成しました。

しかし、明治5年（1872年）3月、神祇省は廃止されました。これは、福羽美静らの主張通り、新時代の祭政一致は天皇親祭が理想とされたためです。神祇省の祭祀業務は宮内省式部寮が引き継ぎ、宣教は、国学や儒学中心の布教では不十分と判断され、神仏儒合同の布教体制を採用した教部省が設置されました。

教部省の廃止と神社局の設立

教部省は、学校教育制度の拡充などにより、次第にその役割が薄れていきました。明治10年（1877年）に廃止されると、その業務の一部は内務省社寺局に引き継がれましたが、その後、神祇官復興運動が盛んになり、明治33年（1900年）に社寺局から神社局が独立しました。

神祇院の設置と廃止

昭和15年（1940年）、皇紀二千六百年記念事業の一環として、神社局に代わって神祇院が設置されましたが、終戦とともに昭和21年（1946年）に廃止されました。全国の神社の管轄は、その後設立された宗教法人神社本庁に引き継がれました。

まとめ

神祇官は、明治維新期の日本の国家体制において、祭祀や宣教、天皇陵管理といった重要な役割を担いました。その歴史は、古代の官制の復活、新たな職掌の追加、そして組織構造の変化など、様々な要素が絡み合った複雑なものでした。平田派と津和野派という異なる国学思想勢力の影響や、天皇親祭という新たな祭政一致の理想なども含め、明治政府の政策と社会情勢の変化を反映した歴史的変遷をたどることができました。 神祇官の興亡は、明治維新期の日本の政治・宗教・社会構造を理解する上で、重要な視点となります。

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