八神殿

八神殿：天皇の守護神と宮中祭祀の歴史

八神殿は、古代から天皇の守護を担ってきた8柱の神々を祀る神殿です。平安時代には宮中（平安京大内裏）の神祇官西院に鎮座し、その後、江戸時代には吉田神社や白川家の邸内にも設けられました。現在では、皇居内の神殿（宮中三殿の一つ）に合祀されています。

平安時代の八神殿

平安時代の宮中では、神祇官西院において「御巫」と呼ばれる女性神職が重要な神々の祭祀を担当していました。八神殿は、その中で大御巫が祀った8つの祠の総称です。祀られていた8柱の神々は、天皇の健康や安寧に深く関わるとされ、『延喜式』神名帳では全国3,132座の筆頭に記載されるなど、特別な位置づけを占めていました。

古図によると、八神殿は独立した8つの社殿が、神祇官西院の西壁に沿って南北に並んでいたようです。各社殿には神体ではなく榊が置かれ、周囲は朱色の玉垣で囲まれていました。玉垣には鳥居が3ヶ所に設けられていたとされています。『延喜式』には、神衣や調度品は御巫の交代ごとに全て一新する規定もあったようです。奉仕する御巫は7歳以上の童女から選ばれ、その数は時代とともに変化しました。

八神殿における最も重要な祭祀は、新嘗祭前日に行われた鎮魂祭でした。この祭祀は、天皇の霊魂の活力を高め、心身の統一を図ることを目的としていました。

祭神

八神殿に祀られる8柱の神々は、それぞれ重要な役割を担っていました。神産日神、高御産日神、玉積産日神、生産日神、足産日神は「ムスビの神」として霊魂に関わる神々で、特に神産日神と高御産日神は造化三神の2柱です。大宮売神は宮殿の人格化あるいは女官の神格化とされ、君臣の調和を司るとされます。御食津神は食物、事代主神は言葉を司る神とされています（一般に出雲系の事代主神とは異なる）。『古語拾遺』には、初代神武天皇の時代にこれらの神々が祀られたと記されています。

特筆すべき点は、皇祖神である天照大神が祀られていないことです。古代において天照大神が宮中に祀られた記録はなく、通説では7世紀後半以降に朝廷の最高神として位置づけられたとされています。

歴史

八神殿の記録は、『古語拾遺』（807年）や『日本三代実録』（859年）に見られます。『延喜式』（927年）では、式内大社に列せられ、月次祭や新嘗祭で幣帛が供えられたとされています。

中世には神祇官の祭祀が衰退しましたが、南北朝時代までは古代の形が維持されていました。応仁の乱で焼失後、宮中では再建されず、江戸時代には吉田神社や白川家によって代替の八神殿が設けられました。

明治維新後、神祇官再興に伴い神祇官の神殿が創建され、八神殿の8神に加え、天神地祇や歴代天皇の霊が祀られました。その後、神祇官は宣教のみを行い、八神殿の8神は宮中へ遷座され、現在は皇居の神殿として存続しています。

神階と関連事項

859年には、5柱の神々が従一位、さらに正一位に昇叙されています。

応仁の乱頃には古代からの神祇官の祭祀は完全に廃絶していましたが、江戸時代に再興され、明治以降は皇居の神殿に継承されています。ただし、祭祀内容は古代とは大きく変化していると言われています。

八神殿の祭祀を伝える神社として、初宮神社（奈良県）や、大宮売神を祀る大宮姫稲荷神社（京都府）、大宮売神社（京都府）などが挙げられます。また、大嘗祭においても「八神殿」と呼ばれる仮設の建物が設けられ、異なる8柱の神々が祀られていたことが知られています。

もう一度検索